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マリー「(ひ゛ゃああああぁあぁあああああ!?!?)……はい?」

「みっともないから走るなよ」

「急ぐんですよ!」

 再びお姫マリーとなり、舞踏会の舞台へと走り出すマリー。

 不精ひげにはたしなめられたが、私は急ぎたかったので裾が地面を擦るようなオーバースカートをつまんで、中庭を小走りに駆けて行く。



 私は小聖堂の辺りに戻っていた。そこで捜索の続きをやろうと思っていたのだが、小聖堂の辺りの様子は先程とはだいぶ変わっていた。衛兵さんが増え、そこはかとない緊張感が漂っている。


「ああお嬢さんここはだめだ、この後、王妃と殿下がお越しになるから」


 私は衛兵さんの一人に呼び止められる。そして私が立ち止まると、私を呼び止めた衛兵さんを、別の近衛兵さんが呼び止めた。


「カルロス! 王妃と殿下じゃない、ディアマンテ女王とゴルリオン王だ!」

「はっ、申し訳ありません隊長!」


 なんと。今からコルジアの王妃と王子がここに来るというのか。


 ハマームはターミガン朝の連合国の中では二番目に大きな国だし、マジュドもニスル朝に協力する諸国の中では代表格の一つだ。特にハマームは歴史も長い。


 だけど……コルジアという、今世界で一番儲かっている国の王族というのは、一体どれほどの権勢を持っているのだろう。

 コルジア連合国王クリストバル陛下の長男、ゴルリオン王シモン殿下。一体どんな人なんだろう。あと……ここディアマンテも一つの王国なのかしら。そしてシモン殿下の母でクリストバル陛下の妻である女性がその女王なのね。


「あの、ここで何があるんですか? 舞踏会と何か関わりが……」

「いや、それは偶然だよ。今日はかの英雄、航海王子、アグスティン提督の命日でもあるんだ。アグスティン提督はディアマンテ王の系譜の祖先だから、女王陛下とその御子息であるシモン殿下が礼拝をされるのさ」



 そんな場所を嗅ぎ回る訳には行かないので、私は衛兵さんにお礼を言ってその場所を離れる。

 これだけ警備が厳重ならトリスタンだって何も出来まい。そしてもしこの警備でもトリスタンを防げないとしたら、私が居ても何も出来ないのは間違い無い。

 私は舞踏会の本会場の方に戻る事にする。また侯爵様の役に立てるかもしれないし。それじゃ今度は淑女らしく、静々と参りますかね。



   ◇◇◇



「昨日審査委員に選ばれた踊り手だね? 遅かったじゃないか、早くホールへ」


 城の執事さんは私をすぐに会場に通してくれた。


 舞踏会の本会場、城の大ホールは昨日にも増して華やかな雰囲気に包まれていた。これでもまだ正式な舞踏会は始まっていないそうだ。楽士達のリハーサル演奏に合わせて、踊りたい人が踊る、何とも自由な空気が漂っている。


 さて、侯爵様は……ああ。会場の中程で、ロヴネルさん諸共、華やかな御夫人方に囲まれておりますよ。あんな物腰の柔らかい侯爵様は貴族の間でも珍しいのかしら。大層人気でいらっしゃるけれど、これでは私のような庶民は近寄り難いですね……そう思っていたら、侯爵様の方から近づいて来てくれた。



「先程は御無礼致しました。フレデリクは侯爵様に御挨拶出来ましたかしら」

「うん。元気そうで良かったよ。マリー嬢、もしや私を探しに来て下さったのですかな」

「はい。もし宜しければ御一緒させていただけませんか? 私は平民ですし、一人ではとても心細いのです」

「勿論、光栄だよ。しかし私のような老人がまた貴女のエスコートでは、若者達に嫉妬されてしまうね」



 私の方は侯爵を囲んでいた御婦人方に嫉妬されるのが怖かったが、どうも御婦人方の目当てはロヴネルさんだったようである。

 あの人も無自覚ですよねぇ。自分ではコルジア人やアイビス人に見えるように振舞っているつもりと言うけれど、あの銀髪と長身はどうしたって目立つ。お顔立ちも絵本の中から出て来たような華やかな美青年だ。



 私は心置きなく侯爵様とダンスを楽しむ。


 多分、私が侯爵の大計に何か貢献出来るとしたら、こんな事くらいですよね。

 華やかな貴族の御婦人方を差し置いて、孫くらいの歳の取るに足らない平民の小娘と踊る侯爵は、傍目にはただダンスが好きなだけの無害なおじいさんに見えるだろう。

 その事はきっと、今このアイビス人侯爵に向けられている、コルジア貴族の皆さんの警戒心をほぐす為の役に立つのではないだろうか。



 メヌエットが終わり、周りから小さな拍手が起こる。私はそれらしく周囲にお辞儀をしてみせる……ああ……こんなの楽しくない訳がない……まるで絵本の中に居るみたい……なんでこんな徒夢あだゆめが叶ってしまうんですかね。これでトリスタンの事とかが無かったらなあ。


 侯爵様が笑っている。


「大変だ、君にダンスを申し込みたい若者達が、列を作って待っているよ」

「まあ、御冗談を」

「君も私のような老人と踊ってばかりでは退屈だろう。彼らの話を聞いてあげてはどうかな」


 きゃああぁあぁあマジすか! 私また、お嬢さん私と踊りませんかとか言われちゃうんですか! 去年のちょうど今頃はヴィタリスの牧草地で牛糞を集めていたような私が、宮廷舞踏会で、そんな風にダンスに誘われちゃうんですか!?



「皆様、向日葵ひまわり門の周りから離れて下さい!」


 その時。執事の中でも位の高そうな人が、ホールに向けて声を張った。ホールに居た数百人の華やかな客達が一斉に静まった。


 何が始まるのかしら。ああ。皆さんがホールの中心から離れて行く。私も下がった方がいいのかしら。

 でもどこへ? そう思っていたら、畏れ多くも侯爵様が自ら私の手を取ってホールの端へと誘導してくれた。なんとも恐縮ですよ。


「おや? だけどこの騒ぎは、君に関係があるようだよ?」


 不意に侯爵様がそうおっしゃった。見ればこの少年の心を持つ御爺様は、悪戯っぽくウインクまでされている……どういう事?

 先程声を張った執事長らしき人が、私の方に駆け寄って来る。何が起きてるんですか? なにこれ怖い。



「そちらの……御嬢様。御芳名をいただけませんか」

「君、そこで名前を尋ねるのは少々失礼じゃないかね」


 私が返事をするより早く、侯爵は執事長にきっぱりそう言った。


「ああ、失礼、これはその」

「私はアロンドラ侯爵、エドワール・エタン・グラナダ。クリストバル陛下より招待状を頂戴して、ここにやって来たのだよ」

「も、申し訳ございません、勿論侯爵閣下のお名前はよく存じ上げております」

「彼女は私の大事な連れです。平民と侮る事など無きよう、御願い致しますよ」


 侯爵様は微笑んでそう言った。何この人かっこいい。

 執事長さん? はますます居住まいを正してから、私の方に向き直る。


「失礼致しました。貴女は昨日中庭のメヌエットのコンテストで金賞を受賞された、マリー・パスファインダー嬢……お間違いはありませんか?」

「ふふ、やはり最初から知っているじゃないか」


 侯爵様が悪戯っぽく笑う。どういう事でしょう? とにかく、私は頷く。


「はい、私、マリー・パスファインダーと申します」


 執事長さんが咳払いをする。


「マリー・パスファインダー嬢。この度は当宮での舞踏会に御参加いただきまして、誠に有難うございます。当舞踏会はクリストバル陛下御自ら主催し、ディアマンテ女王イザベル妃が協賛する、広く世に開かれた舞踏会ではございますが」


「皆待っているので、手短に頼むよ」侯爵がまた微笑む。


「あ……あー。失礼。この舞踏会の協賛者ではないものの……陛下と王妃の御長男であらせられるシモン殿下は、先程よりホール上の王室の控えの間にてこの舞踏会の前のリハーサルを御覧になっており……その、今は正式な舞踏会の場ではないのですが、ともかくですな」


 なんだか歯切れの悪い執事長殿。

 周りがしんとしているせいもあるのか。これだけの人が居る場所だというのに、驚く程静かだ。皆固唾を飲んで執事長を見守っている。


「クリストバル陛下の御長男、ゴルリオン王にしてコルジアの第一王子、シモン殿下が、マリー・パスファインダー嬢……貴女とのダンスを所望されております!」

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この作品は完結作品となっておりますが、シリーズ作品は現在も連載が続いております。
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マリー・パスファインダーの冒険と航海
― 新着の感想 ―
マリーのミーハー面すっきやねんw 王子様とダンスきゃー きゃー
[良い点] 宮廷舞踏会でのダンス。お次は王子様がお相手とは。 お姫マリーさんの人気も上々ではないですか! [気になる点] >ゴルリオン王 す…すみません。脳裏を何故かゴリラが通り過ぎていきました。カッ…
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