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海の勇士マリー・パスファインダー(笑  作者: 堂道形人
ロングストーンに戻って
30/82

アレク「何か落ち込んでますよ、船長」アイリ「厨房に甘い物無かったかしら?」

何を承知したのか。

マリーが適当な事を言っていたら、ストーク海軍の提督ロヴネルさんは、どこかへ飛んで行ってしまった。

 私は何故あの時、ブルマリンで、ストークのフレデリクと名乗ったのか。


 小娘の私ならではの憧れがあったんだろうなあ。北の方の人は色白で髪の色もキラキラしてて繊細な容貌をしていると。

 あと、あそこはアイビス領内で目の前には天敵のトライダーも居たので、なるべく遠くから来た事にしておきたかった。

 たったそれだけですよ。

 たったそれだけのせいで、一体何が起きてるんですか!?



 私はロングストーンの町を駆け回る。どこへ行ったの!? ロヴネルさん!


 何で私が謎の貴公子ごっこをしただけで、レイヴンがストークに文句を言うんですか!? 違うよね? 違うと言ってよ!


 会えたらすぐ謝る! アイビス語でもコルジア語でもいい、本当の事を全部伝えて、それからどこかに連れて行かれるなら連れてってもらって、レイヴンに突き出されるなら突き出して貰って……

 納得は行かないけど……こんな結末は嫌だ。ロヴネルさんどこ! 他のストーク海軍の人でもいいから……



 だけど今度は。どんなに走り回っても……ロヴネルさんにも、ストーク海軍の人にも会えなかった。小一時間ロングストーンの町を走り回った私は、ストーク海軍の人を捕まえる前に、アイリさんに捕まった。



「ウラドは何してたのよ。私ちゃんと貴女が一人で飛び出さないように見張れって言ったのに」

「ウラドはしっかり舷門で見張ってましたよ……あの人私に船長命令って言われたら逆らえないんです、可哀想な事しないで下さいよ」

「……それで? 今回は何で美少年ごっこしてるの?」


 私は一瞬、ハマームで起きた事を言い出しそうになった。

 絶対言えないじゃん! 私あの時期はイリアンソスで大人しくしてた事になってるんだよ!

 うっかりしてた……ロイ爺には言ってしまった。ストーク海軍の人がフォルコン号を探していると……いや、それはクラリスちゃんやサウロさんも知ってる事だからいいか。

 でもハマームの事はまだ誰にも話してないよね? してないよね?


「マリーちゃん?」

「アイリさんは、ブルマリンで私がこの帽子を被ってアイマスクをつけてても、すぐマリーだって解りましたよね? 確か」

「だって船の中で一度見たもの、キャプテン・マリーの服」

「ああ……そうでしたっけ。でもね、普通解ると思いません? アイマスク一つで自分じゃなくなるって、寂しいと思いませんか?」

「それは……そうかもしれないわねぇ……私も化粧一つで別人と言われたら、ちょっと嫌ね」

「この前のサフィーラの女の子、全然解らなかったんです。私が違う服着てアイマスクをつけてただけで、マリーだって解らなかったんですよ。ちゃんと事前に普通の私も見て、声も聞いてたのに」



 私はアイリさんの話をそらして誤魔化しつつ、フォルコン号へと戻って行く。

 これでいい訳ではない。これでいい訳ではないけれど……とりあえず予定通りヤシュムへ向かってみよう。ライオンの船に追いつけるかもしれないし。



 だけど私がフォルコン号に戻った時もアレクはまだ戻っていなかった。何かあったのかと思いきや、久々にサウロ先生と昼食をご一緒してるとの事。

 結局アレクが戻って来たのは午後二時頃になった。



「すまんすまん、わしのせいで出航が遅れていたとは、本当に申し訳ない」

「いいんです、打ち合わせは大事な事ですよ、これからも宜しく御願いします。それじゃ不精ひげ、だらっと宜しく」

「ば~つびょお~」


 サウロさん、クラリスちゃんに見送られ、フォルコン号はヤシュムに向かう。

 何だか後味の悪い船出だなあ。皆には解らないだろうけど。

 こういう時ってあんまりいい風が吹かないような気がする。




 予想通り……風は南西から吹いていて、フォルコン号は風上に切り上がって行く作業を強いられた。


 まあフォルコン号は逆風時のタッキングに強い船なので、古い四角帆のキャラック船を追い掛けたい時にはこの方が都合がいい……そう思っていたのだが。


 日が沈むまで探しても、あのキャラック船は見つからなかった。夜遅くまで見張っても……

 夜半に見張りを交代してくれたカイヴァーンにも頼んだのだが、やはり見なかったと言う。

 もしかしてすれ違ったのかなあ。ロングストーンに戻ったのかも……少し時間の差もあったし。ちょっと古いって事以外にこれといった特徴のある船じゃなかったし。見落としたのかな。




 結局。終始南西風に苛まれた航海の間は収穫が無く。フォルコン号はハリブ船長のフリュート船も追い越して先にヤシュムに着いた。到着したのは正午頃。三度の夜が過ぎており、暦はついに11月1日を迎えていた。


 あと二か月です、あと二か月で私はアイビスで普通にお針子として働ける年になるんです。

 いつもそう思って来たけれど……私、本当に二か月で船から離れられるのかしら。


 私がふざけて言った事で、迷惑している人々が大勢居て。そんな状況で、16歳になったからって自分だけヴィタリスで平和に暮らそうなんて、そんなの通用するんだろうか。


 お父さんに会いたい……ほんの二週間前、私はここで父に会った。その時は……父のふざけた態度に腹を立て、追い回してしまったけど。

 お父さんさえしっかりしててくれるなら、私は今すぐ船を降りる事だって出来るはず。


 フォルコン号は好きだ。仲間達も大好きだ。だけど最近の私は乗組員にも迷惑を掛けっぱなしだし、アイリさんにも怒られてばかりだ。嘘はつくし誤魔化しはするし。どうしたらいいんだろう。早く船を降りるべきか。色々責任を取るべきか。

 私はそんな事ばかり考えていた。



 ヤシュム港の片隅にガレー船ジャマル号、ダウ船サアラブ号、バルシャ船テシューゴ号が揃って停泊している。


 貨物桟橋の方を見れば、キャラック船が忙しく荷物を積み込んでいる……あれはサッタル船長と仲間達ですね。

 あの三隻も寝かせておくのは勿体無いような気もする……まあ今は小麦の積み出しが盛んだけど、これが落ち着いたら荷物も減るもんね。


 うん? 波止場の櫓で太鼓やら鐘やらが鳴っている……どこかで事故でもあったのかしら?



「フォルコン号が来たぞー!!」



 船はたちまち水先案内人に、波止場の倉庫の目の前の特等席に誘導される。いや、うちそんなに荷物多くないから、そんないい所じゃなくても……

 港の人足もわらわらと集まって来ますよ。


 私は真面目の商会長服を着ていたので、かなりの船酔いに苦しんでいた。そこにテンションの高い港湾役人さんが乗り込んで来るのは少々辛い。


「パスファインダー卿! ご無事な航海のようで何よりです! ヤシュムの民一同、船長のお帰りを待ちわびておりましたぞ!」

「恐縮です……」

「ホドリゴ船長も今朝出航して行かれましたし、サッタル船長も間もなく出航されるはず。いやあ、商売繁盛とは誠に良いものですな! 沿岸の各港からも船が戻って来ましたし、この様子ならいずれ! 新世界と行き来する船も我等がヤシュムに寄航するようになるやもしれませんな!」


 あとで聞いたらこの人は港湾役人ではなく、ヤシュムの都市長だったそうだ。名前を聞かなかった私も悪いけど、向こうも自己紹介を忘れていたのだろうか。

 それから、さっきの櫓の太鼓や鐘は歓迎の印だったらしい。



「パスファインダー商会が安く品物を卸してくれるから、近隣から来る地元商人も品物を買って帰れるし、市場に活気が増えたね。早くマリーさんに儲けが回るようにしてあげたいものだが」


 波止場に降りると、ヤシュムでパスファインダー商会の代理人を勤めてくれているナーセルさんも出迎えに来てくれていた。


「今は投資の時ですから、大丈夫ですよ」


 解ったような事を解ってない頭で答える私。何だか船酔いが凄い勢いで治って行く。ついでにさっきまで感じていた憂鬱も。

 ヤシュムはいいな。ちょっとだけ元気出たよ。

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マリー・パスファインダーの冒険と航海
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