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海の勇士マリー・パスファインダー(笑  作者: 堂道形人
情熱のサフィーラ編(笑
20/82

マカリオ「うーむ……やはり……欲しい」フルサイム「……(困ったもんだ)」ベルズ「……(懲り懲りだよ)」

ロワンを男爵の元に戻す事に成功してしまったフレデリク。

弟マカリオを非難もせず、代償を求めず献身する姿勢が男爵の気持ちを変えた。

でも、この小さな成功には何か意味があるのかしら?

「ここに居るという事は……兄の所へ寄った帰りかね。ロワンはどうした?」


 マカリオが言う。私は十分な距離をとったまま答える。


「エドムンド男爵は再びロワンを庇護する事に決めたよ。貴方ももう無茶はやめるんだ」


 マカリオも二人のレイヴン人も、水路に落ちたせいでずぶ濡れのようだ……さて、どうしよう……今度は私は逃げてもいいんだけど……いや、別に逃げる理由も無いか……向こうももう襲って来る理由が無いよな……


「先程はきちんと名前も伺えなかったな。私はマカリオ・バルレラ。エドムンドの弟である事はもう存じているだろう。君は」

「ストーク王国、フレデリク・ヨアキム・グランクヴィスト」

「……兄に話したのかね。私が特別なコートをロワンに着せようとしたと?」

「そして、今後はそういう事が起きないようにと御願いした」


 まさか襲って来ないよなあ。さっきの水路での乱闘は……決闘といいつつ儀礼も名乗りもないものだったし、お互いカッとなって偶発的にというか……良く考えたら私だってサフィーラの衛兵に見つかったらどうなってたのかしら。


 それでこの辺りはというと……あの水路を挟む道よりずっと人が多く、離れた所には衛兵さんの姿も見える。


 立ちはだかったままのマカリオ一行に、私は慎重に近づいて行く。エステルは彼らには敵対してないし、大丈夫だよな……ちょっと応援してくれたくらいで……



「待て。お前の言っている事は全てお前の想像に過ぎず、それを事実であるかのように私に対し突き付けた事は侮辱であり、それを兄にまで話した事は重ねての侮辱と言える」



 ぎゃああああ!? マカリオはサーベルを抜き馬を突っ込ませて来た! 私は手近な塀の上へ跳び上がる!


「貴方はエミリオが好きだったようだが、エミリオも貴方が好きだったのだろう。ロワンもね。僕はこの件でこれ以上事を荒立てるつもりは無い。お互い、亡きエミリオの遺志に免じて、剣を収めないか」


 マカリオは瞳を伏せた。何か考え込んでいるかのように。


 レイヴン人の二人組は……大きい方は、少し興奮したマカリオの馬のくつわを取ってなだめているが……小さい方は……懐から短銃を取り出した!?


「フレデリク。もはやそういう事ではないのだ。私はね、君に興味があるのだよ。決闘は未だ有効だ。私が勝ったなら……君には私の言う事を聞いてもらう」


 は?


 あ……短銃の銃口が……私を向いて……



「やめろ!!」


 エステルのレイピアの切っ先が、短銃を持つ手を下から大きく打ち払った!

 返す剣でさらに一閃、唸るエステルの剣が、背の低い方のレイヴン人の額に、横一文字の浅い傷を刻む。


「ぐわあああ! 死んだああ!」


 男はレイヴン語で叫びのた打ち回る……死にはしないと思うけど……

 大きい方のレイヴン人が轡を引き、馬上のマカリオとエステルが相対する……しかし。エステルの左手は宙を舞った短銃をしっかりと掴んでいた。


「さっきと同じだ! この男は貴方の兵卒だろう、それが一度ならず介入しているのだ、これは決闘ではない! フレデリク! 私に構わず先に行け!」

「エステル……! 君が巻き込まれる筋合いは……」


 私がそう言い掛けると……エステルはキツい目線を私に向ける!?


「君はそう言うと思ったよ! 私は私のすべき事をするだけだ!」


 エステルはレイピアを振りかざし、まず轡を取っている背の高いレイヴン人の方に突きかかる。


「ヒッ……」


 男は轡から手を離す。尚も男を追い払おうとするエステルに、背後からマカリオが……


「危ない!」


 だけどエステルはきちんと見ていた。馬上からの斬撃を間合いを取って交わす。


「早く行けフレデリク! じゃないと私も離れられない!」

「……解った」


 私は屋根の向こうに姿を消す。



「フフ、ハハ……随分簡単に立ち去るものだ……クラウディオの娘。何とも残念だよ。かつての盟友の娘が、こうも簡単に男に置き去りにされるのを見るのは」

「挑発なら無駄だ。これは私の望んだ事だ」

「フレデリクと言ったか……あの少年はコルジア人の情熱、気質、人の愛し方を全く理解していないのだろうな。やめておけ、ストークの男にコルジアの女は重過ぎる」

「知るものか。さあ立ち去れ! 私も銃で騎士を撃ちたくはない」

「ハハハ、それは水路に落ちた時に持っていた銃だぞ。水に濡れて撃てない」


 エステルは一瞬銃を見る……違う!それはマカリオの嘘だ!

 一度距離を取っていたマカリオが、エステルに向けて馬を突進させる……

 私は叫ぶ。


「エステル! 空を撃て!」


――ドン!!


 発砲音が響き、馬の足がすくむ。


「むうっ……」

「そら!!」


 屋根から戻った私は、馬上のマカリオの真後ろに飛び降りる!


「誰が置き去りにしたって!? さあ、馬から降りろ!」


 私は既に抜いていたレイピアを、マカリオの肩から首の前へと突き付けてやる。


「ぬあっ!?」


 馬はさらに暴れ、私のレイピアを避けようと姿勢を崩していたマカリオは、たちまち馬上から落ちる。


「エステル、避けろ!!」


 私は急ぎ手綱を握り、鐙に足を掛けるが、パニックを起こした馬はなかなか言う事を聞かない! エステル逃げて! マカリオもあっち行け! 踏むよ!


 そして毎回申し訳無いんだけど……通行人の視線が集まる……衛兵さん達も唖然としている……多分、傍から見たら滅茶苦茶に暴れる馬の上、私は事も無く座っているように見えるのだろう……船酔い知らずの魔法の効果でこれも、玩具の木馬にまたがっているのと同じにしか感じないのだ。


「落ち着け、どうどう……」


 エステルもマカリオも無事避難した。

 ただ、私は馬のなだめ方なんか知らない。故郷ヴィタリスの地馬なんて、この半分くらいの背丈で、寸胴でめちゃめちゃ大人しいのだ。


「スィー。スィー。シー。シー」


 するとエステルが……掠れた口笛のような音を鳴らす……


「シー……シー……スィー」


 そして少しずつ……馬の正面に立たないように気をつけ、回り込みつつ近づきながら……馬の顎の下に軽く手を触れた。

 すると馬が、かなり落ち着いた。

 私は辺りを見回す……まずい、マカリオ達が立て直して来る。


「エステル! 前に乗って!」

「ええっ!? 後ろじゃないのか?」

「僕だとこの馬がまた暴れたら止められない、頼むよ!」


 私はエステルに手を貸し、鞍の前に乗って貰う。馬だって主人を裏切るのは不安だろう。少しでも馬に慣れている人に操ってもらった方がいい。


「港の方で……いいのか?」

「頼むよ、エステル」


 私はエステルの耳元でそう言ってから、振り向いて叫ぶ。


「決闘は無しだ、マカリオ! 僕がエステルを置いて行くと思ったか!」


 馬は港へ続くなだらかな下り坂を軽快に駆け下りて行く……衛兵達は結局見てるだけだった……それでいいのかこの街の治安は。

 いやー、今度こそ駄目かと思った。だって船も水路もない場所だったし。何とかなるもんですね。


「あ、あの……そんなにしっかり抱き着かれると……」


 あ……少しくっつき過ぎた……そういやフレデリク君は男ですよ。


 ……


 エステルの耳が真っ赤だ。

 私の心のどこかで、何かが警鐘を鳴らしている……

 だけどそれが何なのかがよく解らない。

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ご来場誠にありがとうございます。
この作品は完結作品となっておりますが、シリーズ作品は現在も連載が続いております。
宜しければ是非、続きも御覧下さい。


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マリー・パスファインダーの冒険と航海
― 新着の感想 ―
タラシ案件なんだけど尊くてニヨニヨ不可避なんよw 落ち着き先が楽しみ
[良い点] フレデリクさんが男だったら…いや、もうすでにエステルさんは好きになってますよv
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