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海の勇士マリー・パスファインダー(笑  作者: 堂道形人
情熱のサフィーラ編(笑
11/82

港の遊び人共「ボボネが、とにかく飲んで騒げってよ!」「マリーパスファインダーとかいう英雄はどこだああヒャッハー」

寝静まった仲間を置いて飛び出すマリー、いやフレデリク。

しかしフレデリクが乗り込んだボートには、マリーがイリアンソスでフォルコン号を降り、海賊のバルシャ船を乗っ取る時に勝手について来た仲間、ぶち猫のぶち君が待ち構えていた。

ファウストのサイクロプス号にカチ込みに行く時も、ハマームの王宮で魔術師を迎え撃つ時も一緒だった、謎の猫、ぶち君。

彼は一体何者なのか。

ただの猫です。

 ボートにぶち君が乗っている事は計算外だった。昼間は知らん顔で寝てばかりだったのになんなのキミは。

 私が漕ぐボートは揺れる。飛沫が飛ぶ。そして遅い。ぶち君は飛沫が飛んでこない場所を探した挙句、結局私の膝の上に乗った。

 ボート桟橋はすぐそこにあるけど……発覚を遅らせる為、少し離れた所に泊めようか……



 二つ離れたボート桟橋までどうにか漕いで、舫い綱を桟橋に掛け上陸した私は、念の為土手の花を一輪ボートに置いておく。

 ああ。一緒に来る気ですかぶち君……今夜はかなり歩くよ? 何なら肩にでも乗ってて貰おうかしら。



 昼間はただ、何もせずに過ごすのが嫌だから歩いた土手の道を、私は妙な懸念を抱えて歩いて行く。


 遅い時間にわざわざフォルコン号を曳航しに来た港湾役人は、表向きの愛想はいいが腹の黒い奴である事を私は知っていた。

 中央のもっと便利な桟橋に移って欲しい、タグボートで牽引までするというその申し出も、親切心からでた物なのかどうか解らない、というのは疑い過ぎだろうか。



 完全に日は落ちているし、新月なので空は暗い。

 しかし鍛冶屋通りも、材木屋通りも、まだ働いている人々が結構居るし、街角にはオイルランプが景気よく灯されている……地理的にはヤシュムとあまり条件は変わらないはずなのに、何と不公平な話だろう。

 この街はとても景気が良いようだ。


 我々は午後七時くらいに夕食を食べたが、この街の夕食はもっと遅いらしい。飲み屋や飯屋も、仕事はこれからという風情である。ヴィタリスのマリーに言わせれば、ランプオイルが勿体なくて仕方が無いという所だが。


 さて、のんびりしてる場合じゃない。ぶち君、悪いけど私はこれから走り回ってでも人を探さなくてはならない。後で迎えに来るから、この辺で遊んでてよ。


 え? 待てって?


 そのへんの塀に、続いて張り出した屋根の上に、ぴょんと飛び乗ったぶち君……ついて来いって?

 そりゃ今の恰好なら出来るけど……目立ちませんかね……そうでもないか。


 低い建物の屋根の天辺で、前足を上げて空を見上げ……空気の匂いを嗅ぐぶち君。

 何か見つけた顔。ついて来い? ええ……



 屋根から屋根、塀から塀、時には道の間に張られた洗濯用のロープの上を走る、ぶち君と私。たまに通りすがりの人が気づいて指を差して来るが、気にしない。


 時々立ち止まって匂いを嗅ぎなおすぶち君。私もその間は止まって身を隠す。

 犬と違って、臭いを嗅いでいるというより、空気を嗅いでいるような気配だ。

 新月の夜は勘が冴える……?

 やがて確信を持ったかのように走り出すぶち君。ああ、待って……



 やがてぶち君が、とある屋根の下を見下ろして、振り向いた。

 追いついた私は身を低くして、屋根からそっと覗いてみる……ああっ……ボボネが居ますよ! そう、あいつだよぶち君!


 私が信じられない、という目で傍らを見ると、ぶち君はぺろりと舌を出して前足を舐め、それで顔をくりくり洗って……興味を無くしたみたいに、歩き去って行く。

 あの、なんだかすみません、助かりました……



 ボボネは何かの店に入って行く。船乗りが集まるような開けっ広げな店じゃないな……この服は一度見られているし、ボボネの目にはつかない方がいいだろう。


 エステルを直接探す方法がほとんど無い今は、この男が頼りだな。彼女がこの男をまだ追っていたら、どこかで会えるかもしれない。

 会えたらどうするのかは、まだ何も考えてないけれど。


 しかしぶち君、この男じゃなくて直接エステルの方を見つけてくれても良かったのになあ。

 って、今さっき感謝したばかりの猫に何を我侭言ってるんだ……


 ああ。小さな高い板窓の隙間から、ちょうどボボネの背中が見下ろせますね。

 誰かと一緒に居るな。知らない男だ。



「……フォルコン号が移動しないだと?」

「すみません……断られました。食い下がってみたんですが、あの船長まるで首を縦に振らねえ」


 二人が話しているのは、店内の壁際の小さく区切られた、半ば個室のようになった場所らしい。


「……それで、どうするのだ? 手をこまねいて見ているだけか? 郊外に居るなら、別の手を打て」

「無理を言わないで下さい、ゲスピノッサと150人で倒せなかった奴を私にどうしろと」

「中央桟橋に移動させたら、どうするつもりだったのだ」

「女と道化と酔っ払いを用意していました……ヒーローだ超大物だとおだてて宴会に巻き込んで、その隙にどうにかしちまおうかと……くそっ」


 何か企んでるどころじゃないじゃん……


「港じゅうの遊び人を集めたんですよ……奴ら今頃予定通りの酒盛りの最中ですよ。俺の金を使って」


 私とエステルのお金は、最終的にそこに行ったのか。


「だったら今フォルコン号が居るところに、そいつらをけしかければいい」

「ポラレ村の土手の辺りに泊めてやがるんですよ、そんな所まで押し寄せるのはおかしいし、第一奴らあんな所まで歩きやしませんよ……私はただ奴らに、中央桟橋に英雄が居るからサフィーラ流の歓迎をしてやろうと持ち掛けただけで」

「愚痴を言うしか能が無いのか。ゲスピノッサはいつ護送されて来るか解らん」

「わ、私は、あの男とは関係が無い」


 もう一人の男の声が、ますます低くなる……


「ほう? あの男が港に入り、取り調べを受けてある事無い事言いふらし、私に累が及んだ結果、君の身体が早朝の貨物埠頭に浮かぶ事になっても関係無いのかね?」

「バルレラ様! それは……」

「ゲスピノッサが護送されて来るタイミングでフォルコン号が寄港している。こんなのが偶然だとでも思っているのか!」

「し……しかし……」


 バルレラ様と呼ばれた男が、何かの包みを取り出し、ボボネに渡している……


「今すぐ仕事に戻れ……最悪、これを使え」

「これは……?」

「絶対に私からだとは言うなよ。このコートの綿の代わりに詰まっているのは全て火薬だ。煙管の火一つで爆発する。何ならお前が着てみるか?」

「……いえ」

「そうだな。お前が着るには……このコートは小さ過ぎるな……」



 ボボネが……店から出て来る。

 私はまだ店の屋根の上に居た。さっきまで逆さになって小さな窓を覗いていたので、少しだけフラフラする。


 バルレラってどこかで聞いたなあ。誰だっけ。


 なんだか、とんでもない物を見てしまった。

 ボボネはさっきは持っていなかった包みを、小脇に抱えている。

 それをどうするんだ、この男は。



 人はどこまで悪魔になれるのか? 私はそれを今から見に行くというのか。



 ボボネを追い、私は屋根や塀の上を行く……すると。通りの向かいの屋根から屋根へ、小さな影が飛び跳ね、近づいて来る。

 私が気づき、そっちを見ると。その影……ぶち君はこっちに来いという風に、私を見てから、元来た方へと飛び戻って行く。待ってよ、速いよ!

 私は5m程はある通りの間を、渡されたロープの上を渡って駆け抜ける。



 そしぶち君を追い、屋根から屋根、塀から通りへと、飛び降りてみると。


「えっ……!?」

「エステル……!」


 エステルはそこに居た。2mもない狭い路地で、表通りを伺っている、そのすぐ後ろに、ぶち君と私は飛び降りたらしい。

 ちょっと待って、こんな急に再会出来ちゃっても、ああああ、どうしよう、こういう時、フレデリクは何て言うんだっけ。



「ボボネは誰かに会っていたよ。バルレラという男と話していたようだが、バルレラって誰だったかな。エステル。彼らはただの詐欺師じゃない。もっと大変な事件に関わっているようだ」


 謝罪どころか挨拶もないまま、当たり前のように用件を切り出すフレデリク。


「君はッ……!? ああもう! 私はロワンを尾行して来た!」


 小声で短く答えるエステル。腹が立つだろう? 私もフレデリクのこういう所には普通に腹が立つ。


「ボボネもこっちに歩いて来るところだぞ……ロワンの様子はどうだった?」


 私とぶち君は先程までエステルが覗いていた物陰から通りを覗く。

 後ろでエステルが溜息をつくのが聞こえた。


「……少し、食べ物を買って食べた。それで金は無くなったようだ」


 素直にそう教えてくれるエステル。

 さて、何が起こるか。

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マリー・パスファインダーの冒険と航海
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