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永遠のベルム  作者: MIOD
第一章 対クローロン国戦
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9話

『では、君らに天罰を下そうではないか』



 俺たちが理解できる世界共通語で話してきた敵の指揮官は俺たちの目の前まで歩いてくる。



『まず1つ目の質問だ。貴様らどうやってここに入ってきた?』



 その敵の指揮官は俺に顔を近づけ、物凄い威圧感で聞いてきた。



 そしてその圧倒的な恐怖を目の前に俺は何も話せないでいた。



 口が動かない。座っている感覚がない。頭の中が真っ白だ。もう、ただただ目の前の恐怖から逃れようと視線を逸らすことしか出来ない。



『もう一度聞く。どうやってここに入ってきた?』



 しかし、思い通りに口を開くことは出来なかった。このままではまずいと思いながらも、呆然とそこに座っていることしか出来なかった。



 そんな時だった。俺の隣に地面に座っているレオが大声で叫ぶ。



『は、はは! テメェらの警備がザルなんだよ! まるでどうぞ入って来てくだ――――』



 ――――そのレオの顔に蹴りを入れる敵指揮官。とても鈍い音が鳴り、レオは地面を2、3回も転がり倒れる。



「レオ?!!」



 俺がやっと声を出せたのはレオを心配した時だった。



 レオは蹴られてもなお敵指揮官を睨みつけ大声で叫ぶ。



『お前ら、何故か勝ち誇っているようだがほんとにそれで大丈夫かよ?! 本当に俺たちを捕まえた〜とか思ってないだろうなぁ?!!』



 その大声は敵兵全員の耳に入り、そこに生まれたのは嘲笑だった。



『何を言っている? 追い込まれて頭がおかしくなったか? まぁこうなっては仕方がない。情報を引き出す方法などいくらでもある』



 俺たちを拷問にかけるつもりのようだ。



 俺はレオを見る。レオは先程の蹴りで切れた唇から血を流しながら俺をじっと見ていた。



 後は俺に任せたと言わんばかりのとても強い視線。



「……」



 俺に考えろと訴えかけている。俺はレオに信じられていた。



 こうなったらやるしか無いだろうが……。始まりは俺の提案だったんだ。なに弱気になっていたんだか。何のために爆破術式を敵の目かいくぐって設置してきたんだよ。全てはこの瞬間のためだろうがっ!



『1つ俺から情報を提供しましょう』



 命をかけて設置してきたこの努力を無駄にしてはならない。



『ほほう? 我々の情報を引き出す方法が怖くなって怖気づいたか??』



 俺たちはこの戦争で死にに来たんじゃない。



『えぇ。怖気づきましたよ。今も恐怖で体中震えてます』



 頭フル回転させて出してきた知恵を無駄にしてはいけない。



『はっはっは。貴様、恐怖のあまり国を売るのか。いい心がけだ』



 全てはこの時この瞬間から生き残るために動いてきたんだ!!



『そうですね。これから始まることが怖くて怖くて仕方がありませんよ……』



 今まで設置してきた爆破術式は様々な場所にある。そして、それは俺の今いる場所の近くにもある。ここから見える距離だ。



 1つを爆破させたらあとは誘爆でどんどん規模が大きくなっていく。しかし、俺たちが爆破予定のベースキャンプ内にいるので巻き込まれる可能性が大きい。いや、必ず巻き込まれる。運が良ければ軽傷、悪ければ敵と同じく即死。これは賭けだ。



『何を笑っておる……』



 俺がニヤニヤとしていると敵司令官がその異変に気がつく。



 その間にもどんどん思考実験を繰り返して、1番確実な爆破ルートを考えていく。



 そしてそれを導き出す。



「レオ、始めるぞ」



「へへっ、やってやれ!!!」



『何を喋って……』



 魔法というものは、手を突き出した方向に魔法が射出される。しかし俺たちは手を縄で結ばれ動かせない状態だ。



 そして魔術式発動のためには、魔力を送り込まなければならない。術式に手を向けての詠唱だ。これは安全性のためこういう動作が決められているのだ。



 しかし、俺たちが使った欠陥品である爆破術式はそういう動作が必要無い。術式の周りに魔力さえあれば勝手に発動されてしまうのだ。故に欠陥品なのだが、ここでは優秀な術式だ。



 俺たちの手が縛られた状態で魔力を術式の方に与える方法。それは……。



「レオ、術式の方向に向かって走り出せ!!」



「おうよ!!」



 俺たちは一気に四方八方に逃げ出す。そういう風に敵は見えているが、実際は爆破術式の方向だ。



〈捕虜が逃げ出しました!!〉



〈ええい! 実力行使せよ!!〉



 敵司令官が大声で兵士に命令を出す。



『この状況で逃げられると思えるとはとんだ馬鹿者だな!! 無駄な抵抗はよせ!!!』



 敵兵から放たれた本物の魔法が俺たち目掛けて飛んでくる。当たれば死にはしないがしばらくは動けなくなるだろう。



 とにかく動ける足を働かせて四方八方から飛んでくる魔法を避けていくが、ところどころ被弾してしまう。しかしこれでいい。



「レオ!! 伏せろぉぉぉ!!!!」



 四方八方に飛び散っていった敵の魔法は俺たちが設置した術式を発動させるのに十分な魔力を空気中に供給していた。



 そしてそれがきっかけで爆破術式が光りだす。



〈し、司令官!! 術式が光り始めました!!〉



 もう遅い。



 1つの大きな爆発。それだけではただの初級魔法規模なので威力は小さい。



 しかし、その魔力による爆発によって周辺に魔力がばらまかれる。そして近くにあった爆破術式が起動していく。



 最初の爆発は音が小さかったが、どんどん規模が大きくなり、やがて大きな爆音と大きな振動が俺たちを襲う。



 敵も為す術もなく爆発に巻き込まれていく。爆発によってコンテナなどの資源物資は粉々になり、地面も地割れを起こし数秒前では考えられない悲惨な状態を作り上げる。



 敵が騒いでいる気がするが全て爆音によってかき消される。いろいろな破片が俺に飛んで来るが、身を伏せているおかげか大事には至らなかった。



 やがて爆発は収まり俺は顔を上げる。まずはレオの生存確認。よし、一応は生きているようだ。



 上空には爆発によって生じた黒い煙が上へ上へと登っていく。



「れ、レオ……。大丈夫か?」



「あ、あぁ……。なんとか。だが耳がキンキンなってやがる……」



 とりあえず完全に崩れ落ちたコンテナに満身創痍となった体を潜める。敵が全滅したとは考えられないからだ。



「はぁ……はぁ……。こんなに大規模な爆発が起こるなんて思わなかったぞ……」



 レオがその爆破術式の威力に驚いていた。



「ちょっと周りを見て……うわっ?!」



 急に土煙の中から魔法が飛んでくる。敵の魔法だ。



〈貴様らぁぁぁぁあああ!!! 何を仕組んだぁぁぁぁ!!!!〉



 頭から血を流している敵司令官が出て来る。何を言っているか分からないが怒り狂っていることがこの目で理解した。司令官は周りの煙を風魔法で飛ばし一部の視界を確保する。



 その晴れた視界には何人もの敵兵が倒れており、大打撃を与えられたことを俺たちは確認する。



「逃げるぞジーク!」

「あぁ……!」



 そして逃げようとするも地割れを起こしている地面を走ることなど出来ず、すぐに敵司令官に追いつかれてしまう。



〈貴様らは絶対に殺ってやる! この手でえええ!!〉



「この!!」



〈なっ?!!〉



 俺が捕まりそうになったところをレオが体全身を使ってのタックルをかます。



「こっちだ! ジーク!!」



 レオが逃げられそうな道を探しだし、そこに全力で駆けて行く。



 そして倒れているコンテナを避けながらどんどん前へ進む。



 そうして死ぬ気で逃げ回ること数分。未だにここから脱出できる道を探し当てることはできなかった。



「くっそ! どこにいけばここから出られるんだよ!!」



「っ?! まずい、あいつがもうここに?!!」



 逃げ回ったのにまだついてくる敵司令官。血だらけで砂まみれでとても酷いありさまだった。



〈はっはっは……。もうここからは逃げられないぞ?〉



「ジークどうする?!」



「くっそ……!」



 考えろ! まだ脳は動く! ここから生き延びる唯一の手段を考えろ!!



 しかし、ずっと逃げる手段を考えていたせいか、周囲の変化に気づけなかった。



 気づけば敵司令官が目の前にいて、俺の首を手で掴まれる。



「う、ぅがぁぁ!」



「ジーク?!! ぐっ?!」



 レオには近距離で魔法を打ち込まれる。そして気を失ったレオ。



 俺はまだ首を掴まれている。そしてその手の力がだんだんと強くなり、首の骨が折れそうになる。



「うがぁぁぁ!!」



〈はっはっは!! このまま逝け!!〉



 まずい! このままではほんとに死んでしまう?!



 せっかくここまで来たんだ!



 せっかくここまで生き延びてきたんだ!!



 ここで死ぬのは嫌だ!!!



「ぁ“ぁ”あ“あ”あ“!!!」



〈逝けぇぇぇぇぇぇ!!!!〉



 もう終わりと思っていた頃だった。横から魔法が飛んでくる。



〈っ?!〉



 それは俺の首を掴んでいた敵司令官の顔に直撃し、そいつは気を失う。



 そして急に解き放たれた俺はそのまま崩れ落ち地面に倒れる。



「げほっ、げほっ!」



「もう大丈夫だ! 我々はオーレリアン大隊! 援軍である!!」



 援軍……。



 あぁ……。援軍……。



 助かった……。



 援軍という存在に安心をする。



 そして今までの緊張が解かれたためか一気に力が入らなくなる。



「は……。はは……」



 ここで俺は意識を失った。


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