8話
レオが爆破術式の設置に成功した合図をしている。
俺はレオから遠く離れた場所でそれを確認してここから先のルートに敵影がいないかを確認する。
よし、誰もいない。このままだと無事術式を設置出来そうだ。
敵の数がどんどん減っているような気がする。恐らく戦線での争いが激しくなって増援を送っているのだろう。
的確な判断だと言える。だが、それは返って不利な状況を生み出している。どんどん増援を送るほど、俺達は動きやすくなる。もしかしたら爆破術式を設置するだけしてそのままここから逃げ出せるということも可能かもしれない。
あとは爆破術式を起動させ、ベースキャンプを爆破、それを見た敵軍隊は撤退せざるを得なくなる。
戦場から敵軍隊がいなくなり俺たちは悠々と歩いてホームベースキャンプに帰還。
あぁ素晴らしいな。
レオがここに来るまで待ち、俺は敵の影に目を張っていた。
「よし、しっかりと設置したぞ。あとはあそこだけか……」
「あぁ、あそこに設置し終わったら俺達はミッションコンプリート。あとはここから逃げるだけだ」
「あぁ、やっと……、やっと帰れるんだ……。生きてんのか死んでんのか分からないこの状況からやっと脱出できるんだ……」
まだまだ俺たちは話せるほどに動けるようだ。
少ない敵の目を掻い潜り、ゆっくりと慎重に移動をしていく。コンテナとコンテナの間を移動していき、遂に俺たちは最後の目的地点に達する。
「よし、ここだな」
「あぁ。ここで最後だ」
その時だった。周りの敵がなんだか騒がしくなっている。
敵国の言葉なので何を言っているのか分からなかったがどんどん敵が増えているような感じがしてならない。
「お、おい、ジーク……。なんか敵の数増えてないか……?」
俺の服をつかみ出すレオ。その手はとても震えており、どれほど緊張しているのかを物語っていた。
そして、背を低くしてしゃがんでいる俺も、足の震えが止まらなくなる。
「もしかしたら見つかったのか……?!」
「だ、大丈夫だよな? ただの増援兵を集めて一気に戦地へ送るつもりだよな?!」
レオの予想は悲しくも外れていた。
敵兵の1人が俺たちの設置した魔法陣に気がついたようだ。その兵が指を指して魔法陣の存在を味方に知らせている。
「あ、あぁぁ、あぁぁぁあああ!! やべぇってこれ!!」
「落ち着け! レオ! まだ大丈夫だ。まだ俺たちが見つかったわけじゃない! とにかくここから逃げるぞ!!」
小さな声で全力で叫ぶ俺たち。
俺が逃走経路を探す。しかし、すでに周りは敵だらけ。
敵兵が自軍のベースキャンプに侵入してくるという前例の無い出来事のため、もう大騒ぎものだ。
どんどん敵兵が集まり、俺たちが見つかるのは時間の問題となってしまった。
「つ、詰んだ……」
俺がそうつぶやくと、レオが俺の首を掴んで揺さぶってくる。
「おぉぉぉいいい! お前が諦めたらほんとに終わっちゃうだろ!! なんとか打開策を見つけてくれよ!!」
俺はレオの手を強引に剥がし、レオの顔を見て言う。
「こんなにも敵がいるんだぞ?! どうやって逃げろと?!」
「お前が逃げようって言ったんだろ!! 最後まで責任持ってくれよ!!!」
その口喧嘩が原因だったんだろう。
〈見つけたぞ!!!〉
敵が何を言っているか分からなかったが、隠れている俺たちを指差して周りに大声で叫んでいる1人の兵士がいた。
それは俺たちが非常にまずい状況に陥ったことを表していることはすぐに分かった。
「くっそ、見つかった!! 全力で逃げるぞ!!!」
「逃げるってどこにだよぉぉぉ!!!」
俺が先行してその後についてくるレオ。後ろからは全力で魔法を放ってくる敵兵たち。
コンテナを上手く使ってどんどん魔法から逃げる俺たち。敵兵の数が多すぎてすぐに囲まれてしまうので止まっている暇も、考えている暇も無かった。完全に直感だけを頼りに俺は走る。
〈敵兵2人! 増援を求む!!〉
敵が何かを叫んでいる。そして、建物内からどんどん出て来る敵兵。
「まずい! 増援だ!!」
「何が敵の数が少ないだよ?! 中にめっさいるじゃないか?!!」
とにかく走る。もうベースキャンプの出口がどこにあるかは分からない。コンテナとコンテナの間を走り抜け、一秒でも生き延びようと必至にあがいていた。
しかし、どこに逃げても周りは敵だらけ。ここからの出口も見つけられないでいた。
そして、とうとうきれいに敵に囲まれる。
「くっそ……、ここまでかよ……」
レオは両手を上げて降参の意を表す。俺も両手を上げてそのまま立ち尽くす。
敵が構えの姿勢を保ったまま俺たちに近づいてくる。
何かここから逃げられる方法は……っ!
敵が4,5人集まり縄で手を拘束し始める。
このままじゃ本当に逃げられなくなる?!
敵が俺たちを引っ張り中央広場らしき場所に連れて行かれる。
……。
中央広場のど真ん中で放り投げだされ、敵の円陣のど真ん中に2人が取り残される。
……。
「……すまねぇ、レオ」
「ジークがそう言うってことはもうここから逃げられないってことか……」
顔は正面を向いたまま、小声で話し合う俺たち。話し終わったと同時に敵の円陣から1人の人が歩いてきた。
周りとは違う軍服だ。おそらくこの場の指揮官だろうか?
『やぁ南蛮族よ。君らがここに来るなんてとんだ馬鹿げたことをするもんだ』
その人は俺たちにも分かる言語で――――世界共通言語であるクリューソス語で話してきた。
『では、君らに天罰を下そうではないか』
悠々と歩いてきたその敵指揮官は手を広げながら俺たちを見下すような目でそう言ってきたのであった。