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永遠のベルム  作者: MIOD
第一章 対クローロン国戦
3/47

3話

 空は皮肉にもとても綺麗な快晴だった。それは俺たちの旅立ちを歓迎しているかのように思えた。



 大学の入り口前にはたくさんの学生と、それらを戦地へ運ぶ魔導車がずらりと並んでいた。



 戦地に向かうと聞いた生徒の親たちは大学の檻の外からその勇姿を見守っている。



 泣いている者もいれば、泣くのをこらえて笑顔で見送る人もいた。その人達を見るとなぜだか複雑な気持ちになる。



「ジーク、お前んちの親とかって来てるのか?」



 隣に並んでいたレオが俺に聞く。



「ん? あぁ、親は来てないよ。まず俺のことどうでもいいとか思ってるだろうし」



「そんなもんか? まぁ俺の親も、見送るほど心の広い人じゃないけど」



 レオの親も来ていないらしい。



「だけど、見送りに行ったら悲しくなるから逆に行かないって思ってそうだね」



「はっ、まぁ戦地行く前に親の顔なんて見たくないね。生きて帰ってどうせまた死ぬほど見る羽目になるんだ。親に「死ぬ前に息子見なきゃ!」とか思われると逆に腹立つな」



 レオはそう言い、檻の外で待機しているいろいろな親たちを眺める。



 そうしていると、軍の人だろうか? それらしき人が、生徒の前のお立ち台に上がり、演説を開始する。



「この快晴で恵まれた天気に、魔導大学生徒諸君の晴れ舞台! その偶然に私は運命を感じております!」



 そして、これから長くなりそうなその話を半分聞き流しながら俺は周りの景色を見て暇つぶしをしていた。



 流石に隣の人と駄弁るなどという行為はこの場においてできないため、静かに直立をして、前の演説しているおじさんの話が終わるのを待っていた。



「ここにいる皆が、我が国のためとなるならばと喜んでその身をこのクサントス国の盾として敵国の槍を防いでくれるでしょう!!」



 ところどころ話を聞いていると、馬鹿げたことも少々言っていた。俺らは死ぬためにこの大学に来ているわけではないのに……。戦争を未然に防ぐための勉強をしに来ているのに何が喜んで国の肉の盾だ? 馬鹿げている。



 恐らく隣に並んでいるレオも同じことを思っているだろう。



「では、我が国の勝利のために! 全力を尽くそうではないか!!」



 そういい、その10,20分にも渡る演説は終わる。この後に我が国の国家を斉唱すれば俺たちは戦地へと送られる。



 生徒の横に並んでいる演奏隊が国家の曲を演奏する。それに合わせて俺たちも国家を斉唱する。



 そして、それが終わると周りからの拍手、掛け声、いろいろな声が飛び交う。そこにマイナスな言葉など存在しない。全てプラスな言葉だ。良かったねとか、頑張れとか、我が国の英雄とか。そういうのしか飛び交わない。それを聞くたびに、俺は思うのだ。



「実際悲しんでるくせになんで偽って言うのだろうかね……」



 その俺の言葉を軍の誰かが聞けば俺は処罰されるだろう。まぁ流石に聞こえるほどの声量で言ったわけではなく、つぶやき程度だ。



「兵隊諸君! これから順番に誘導する! 故に静かに待っていてくれ!」



 輸送魔導車の並んでいる所で体がとても鍛えられている怖そうな軍人さんに誘導されていく。輸送魔導車には1台20人も搭乗できるらしい。



 そして俺はレオと同じ車両に乗る。中は少し暑苦しいくらいだがまぁ我慢はできるだろう。



 そして、輸送魔導車は静かに戦地へと発車したのであった。



 同じ車両に乗った人たちはみんな顔が暗かった。それもそうだろう。これから戦地に行くんだ。少しは気持ちが分かる。



 俺だってかなり緊張している。心臓バクバクだ。しかもこの密閉空間に閉じ込められてこれから来る死を待っていろと? どうかしてる。



 中はコの字型に長椅子が設置されていてそこにおとなしく座っている感じだ。



「なぁジーク、なんか実感がありすぎて逆に実感が無いんだが……」



 隣に座っているレオが俺に話しかけてきた。



「え? 何言ってるんだ?」



「すまん……、俺も自分で意味が分からなかった……」



「緊張しすぎだよレオ、緊張しすぎてると、いざというときに動けないぞ」



「そういうジークは緊張していないのかよ?」



「俺だって緊張してるさ。でもこうでも言ってないと心臓が破裂して死にそうだ」



「戦地で殺されるよりかはマシだな」



 レオと話しているとなんだか少し緊張感が和らぐ。やはりいつも一緒にいる友がいると助かるな!



「この~!」



「いっで?! なんだよいきなり?」



「へへ、なんか殴りたくなった」



「そうか、反逆者を一人見つけた。これから無力化に移る」



 レオは通信用の魔晶石を取るふりをしてそう言ってから俺の肩にパンチを何回も入れる。



 そういう様子を見ていた周りがくすっと笑いだし、重かった雰囲気が少し軽くなった。



「何やってんだよお前ら。よくこんな状況でふざけ合えるな。ははっ」

「まず、魔晶石の持ち方が間違ってるし、また講義受けなおしてこい」



 周りが笑ったことによって俺の気持ちも少し和らいだ。



「なんか、緊張が少しでも解けたようで良かったわ」



「あぁ。こんな緊張感でずっとここで待ってるってのも体力削るだけだからな」



 レオも笑い、気を少し楽にしたようだった。



 そのまま俺たちは車両内でうるさくならない程度に雑談をし、緊張感を解いていっていた。



 車が走ること2時間がたっただろうか。



 俺たちの座っている空間には、窓は無いが、布の隙間から外の景色が見えていた。



 そこから見る外の景色に人影は無く、資源配達の魔導車や軍人さんが歩いていただけだった。



 全てが砂利道。森林はあれど、通る道には木が一本も生えていない。辺りを見やすくするために伐採したのだろうか? それとも、元々ここが街道であった可能性もあった。



「やっぱり、もう戦争地域なんだな」



 俺と同じく外の景色を見ていたレオがつぶやく。



「あぁ。というかここ、全然後方な気がしないんだが……」



「同感だ。武器やら、たくさんあるし、ここは戦地のベースキャンプだろうな」



 その時だった。遠くからだろうか? とても大きな音が聞こえた。その轟音は地響きとともに来た。



 ゴォォォォという身にしみ渡るような音が俺たちを驚かす。



「なっ?!」



 とっさに身を屈め、低くする。



 魔導車もその音と地響きを感じ、一時停車をした。



 しばらくして、魔導車の運転手らしき軍人さんが俺たちのいるところに後ろから入ってきた。



「運転手だ。もう頭を上げていい。先程大きな爆発音が聞こえたが恐らく自軍の魔法攻撃によるものだ。安心していい」



 自軍の魔法攻撃だとしても、もともとビクビクしていた俺らからにしたら心臓が止まるかと思った。



 運転手さんはそのまま運転手座席に戻り、走行を開始する。



「は、はは……、ははは……。怖ぇぇぇ……」



 レオが震える口をどうにか動かしてつぶやく。



「もう戦地が近くにあるんだろう……。足の震えが止まらないよ……。ははっ」



 俺は乾いた笑いをしながら足を手で抑える。



 とても震えている。



 そのまま震えを頑張って止めていると、かなりまた時間が経っていたらしく、気づいたら自軍のベースキャンプについたようだった。



 ゆっくりと魔導車が停車し、アクセル、バックを繰り返して、指定の位置に停車する。



 その車の揺れに自分の体が揺れながら、俺達はベースキャンプの到着を認識する。



 そして、また運転手さんが後ろから入ってきて、座っているみんなに声を掛ける。



「新人たち、ベースキャンプに着いた。降りる準備をしてくれ」



 そしてその運転手さんは一回出ようとしてからまた入り直し――



「――後、ここから出たら君たちは軍人であり兵隊の一人となる。その意識をしっかりと持ってくれ」



「「「はいっ!!!」」」



 皆が一斉に切りの良い返事をする。それに満足した運転手さんは少し笑顔になる。



「よし、いい返事だ。ではここから出てくれ」



 そう言われ俺たちは車の外に出る。



 レオがずっと座ってたせいか足を痺らせて俺の肩をがっしり掴んでいたが俺は気にせず移動を始める。



 しかし、ベースキャンプに来るのは初めてだ。模型での訓練はしたことがあるが、実物を自分の目で見るとなぜか緊張感が不思議と沸いてくる。



 周りは砂利ばかりで、余計な物がない。が、森林で囲われているので安全な隠れ家にはなっているだろう。



 そして耳を澄ませてみれば、何度も爆発音が、小さいが聞こえてくる。あぁ。戦地は目の前にあるのだ。



 ベースキャンプといっても、ここはテントだけではなくしっかりとしたコンクリート製の建物があった。意外とでかく、2,3軒分の家の大きさがあった。そして、恐らく地下もしっかり作られているだろう。そしてそこに兵を休ませたりしているのだろう。



 建物や立地を分析していると、その建物から一人の男性が出てきた。軍服の紋章を見る限り少佐の階級の人だ。ということは大隊長だったりするのだろうか。



「新兵諸君、この度は徴兵に参じてくれてありがたいと思っている。私はここの大隊を率いているオーレリアン・バレーヌ少佐だ」



 オーレリアン少佐殿。ということは全てこの方がここを仕切っているのか。



「まずは中に入ってくれ。作戦会議室を使っていろいろと説明をしよう」



 俺たちはそのまま少佐殿について行き作戦会議室と名札がぶら下がっている部屋にたどり着く。



 室内には、少佐殿と魔導大学からここに派遣されたであろう新兵約60人がいた。みんな緊張している様子で顔が強張っている。



 少佐殿に席についてくれと言われたので俺たちは席につき、少佐殿の話を聞く。



「まず、私たちが所属しているのはクサントス軍の第14魔導大隊である。我らは主に魔法戦闘を基本として、我が軍の主力部隊となっている。諸君らはその大隊に所属しているということを意識するように」



 早速俺らは軍の主力大隊に所属されましたとさ。やったぜ、早速前線に派遣されたぜ! ははっ!!



 主力大隊ということは大隊の中で一番命を落としやすいところだ。あぁ。俺の寿命はここで一気に縮まったのだ。



「そして、ここは第14魔導大隊のベースキャンプの一つである。他にも2つくらいあり、そこで兵士は休息を取っている」



 そして、オーレリアン少佐殿は書類をここにいる皆に配る。



「大体のことは魔導大学で学んでいると思うが、念のためマニュアルを作っておいた。これを見て自分で考えて行動してくれ。全てここに載っている。ここに載っていないことでわからないことがあったら近くの兵士に聞いてくれ。あと、重要なことは私か、副隊長に報告を。では早速行動に移してくれ」



 そのまま少佐殿は部屋を出ていってしまう。とても忙しいのだろう。



「なあジーク、俺たちの部屋ここの地下2階にあるらしいぞ」



「やっぱり地下があったのか」



 配られたマニュアルを見ると、二人で一つの部屋を使うらしい。俺はレオと一緒だった。



 早速、俺達は階段を使って地下二階に向かう。しかししっかりとした建物で、コンクリートで丈夫に作られている。ちょっとやそっとの魔法攻撃では崩れないだろう。



「ここか」



 与えられた部屋の中に入ると、そこにはベッドが二つしかなかった。



「うっへぇ~、予想はしていたが、やはりきついなぁ~……」



「まぁ休息を取るためだけの部屋だからな。しっかしこのベッド硬いなぁ……」



 お互いに不満を言いながらもどんどん支度を済ませていく。



 そしてマニュアルを見てこれからの行動を把握していく。



 レオが日程表を見て言う。



「俺達が戦場に出るのは3日後か……。かなり近いな」



「それまではこの施設に慣れてくださいってことか。食堂は地下1階でシャワールームは地下2階と……」



 その後も淡々とマニュアルを把握していき、時間だけが過ぎていく。



 マニュアルを読み終えた頃にはすでに夕飯の時間が来ていた。



「うげ、もうこんな時間かよ?!」



「あぁ。昼食取るの忘れてたなぁ……」



 ここに着いた頃にはもう昼だったので昼食を取ろうにも時間が無かっただろう。



「ここの食事はどのくらいのレベルなのか俺は心配だ……」



「少なくとも学校の定食よりかはひどいだろうな」



「あぁ~、もう毎日が絶望だぁ……」



 食事をこよなく愛する俺たちにとって、食事の美味しさというのは生きるために必須な事項だ。



 主力大隊だから特別な待遇があってもいいじゃないか? と思い、淡い期待しながら俺たちは地下1階へ移動し食堂へと向かった。


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