2話
「はぁぁ~、美味しかった~!」
俺は頑張って調理した肉料理を存分に味わって食べ、完食をした。
もしかしたら当分は肉料理が食べられないであろうから今日は頑張った。
そのまま食器を洗う。冷たい水に我慢しながらどんどん洗い、終わらせる。
そしてやることが終わった俺は、自室に戻りベッドに転がる。そして今日の講義の復習をそのままする。といっても教科書を読むだけだが。
戦略と戦術か……。
そういえばこの国の戦略はどうなっているのだろうか。周りは川と海で囲われているとはいえ、3ヶ国に囲われているのだ。北にキュアノス国、南にクローロン国、西にはエリュトロス国。特に西の国は周りと比べ一番大きい。
そんな国のうち、もう2ヶ国とは戦争を開始した。このままじゃどんどん兵士が減っていくだけだ。そのうち軍大学から徴兵をかけて、それでも飽き足りず、国民にも徴兵をかけるだろう。
軍大学に入ったときから徴兵されるのは決意していたのだが、ほんとに来るとは思わなかった。しかし、このままだと徴兵コースまっしぐらだ。
今の国の状況を俺は実感した。
とにかく、話し合いで解決はできなかったのだろうか。
もしかして、もう手付かずだったりしてな……。
「っは。それはないか」
そろそろ眠くなってきたし、寝るとしよう。明日は1限からあるのだし早く起きなければいけない。
部屋の魔導式ランプを消して俺は部屋を暗くする。
そして、ゆっくりと夢の中に入っていくのであった。
◆
――チュンチュン。
朝だ。
窓から薄い白いカーテンを超えて太陽光が俺の顔に当たる。
毎回思うのだが、このカーテンは意味を成していない。無いよりかはマシだが。
「起きるかぁ~、ふぁ~~」
洗顔しに、洗面台のところへ行き、鏡で自分の顔を見る。
いつもどおりの焦げ茶の髪とクルクル具合だ。
水で寝癖を直し、顔を洗い、食卓に戻る。
朝食は昨日、夕飯を作ったときに同時に作っておいたので、それを食べる。
食べ終わったらそのまま歯を磨き、制服に着替える。
そして靴を履き、ドアを開け、閉め、鍵を確認する。
いつもどおりの朝だ。
大学の敷地内なので、寮から数分歩けばすぐに大学の入り口だ。
そして入り口につくのだが、そこには大きな人だかりができていた。
「何か張り紙でもあるのかな」
大学からの連絡事項など重要なものは張り紙として入り口付近に張り出されるのだが、それなのだろうか。
「お、ジーク! おはよう!!」
「おぉ、先に来てたんだ。おはようレオ」
「なぁなぁ、これ見てくれよ……」
レオが指を指した先には、大きな張り紙が張り出されてあった。
『学徒徴兵。今日の講義は休みとします。昼の時間まで待機していてください』
そこに写されていた4文字『学徒徴兵』に俺は目を張った。
「は?」
「この紙が大学中に張り出されてあって、このざまだよ……」
学徒徴兵。軍大学の生徒が戦場に兵として派遣されることだ。
周りの人達は俺と同じく困惑を極めているようだった。
「なぁジーク、これいたずらだよな?」
「いや、いたずらでやったら処罰モノだよ……」
「うっそだろ……おい……」
まさか、昨日話したことが本当になるとは思わなかった。
「とりあえず、昼まで待機らしいから、食堂の空いてる席に座ろう……」
「お、おう……」
俺はレオを連れて食堂に向かう。みんな待機しているため、食堂は騒がしく混んでいた。
「混んでんなぁ~……」
レオがその光景を見て感想を言う。
「あそこ空いてるからそこ座ろう」
ちょうど空いている席を見つけ、そこに座る。食堂に来るときにいつも買っている軍事新聞を買っておいた。
「しかし、軍事新聞、いつもより売れてたな……」
「そうだったのか? 止めてくれよ? 戦争が激化した~っていう話は」
まぁ、そういう話でないと今日の張り紙の説明がつかない……。
すぐさま軍事新聞を開くと、見開き2ページに渡って、大きく一面を飾っているのがあった。
『戦争激化。南のクローロン方面にて防衛線崩壊』
ふむ……。とりあえず、その新聞一面をせわしなく周りをあちこち見ているレオに見せる。
「レオ、これ」
レオは俺の見せた新聞を手に取り、その一面を見て口をあんぐり開ける。
「戦争激化……、まじかよ」
まぁその気持ちは分かる。俺だって何を考えればいいのか分からないからな……。
「ジーク、これから俺たちどうなるんだ……?」
「さぁ、分からないとしか言えない……。昨日言ったみたいに、戦場に投下されて即死とかもありえるかもな」
「はっはっは、まじかよ、笑えるんだが」
「同感だ。学生が何の力になるってんだよ……」
レオは机に広げた軍事新聞を取り、他のページを見る。
「どれも防衛線崩壊についてしか書かれてないな……。これは俺たちが肉の壁になれと?」
「魔法を使えたとしても初級程度だしなぁ……。講義で習ったことをそのまま本番で応用できる気もしないし……」
「あぁぁ、ほんと物騒な世の中を超えて、畜生な世の中だよ!」
ほんとに同感だよレオ。俺もこの世の中を恨んでいる。
「ジーク、死ぬときは一緒だ。俺が死んだらお前も死んでくれ」
「は? なんだよそれ、それだともしお前がミスったら俺もその責任を取らなきゃいけないってことになるじゃないか」
「そのために助け合って行こうってことだよ」
まぁ助け合いというのは大事なことだ。レオとはコンビ組んでるみたいな仲だし、勝手にいなくなっては困るからな。
「あぁ~、どこに派遣されるんだろうな~」
「できれば後方がいいな……」
俺の細やかな願いをレオは同感し――
「あぁ、そうだな……」
俺達はずっと気分が下がったまま昼を待っていた。
◆
「では、これからアドルフィト元帥閣下からのお話です」
俺たちは今、大学構内の体育館にいる。ここには大学の全生徒が集まっており、今日講義が無い人たちも呼び出されている。
そして、今目の前にいるのは、我が国クサントス国の軍のトップだ。これから話す内容は大体察しがつく。
「こんにちは。私はクサントス軍のアドルフィト元帥である。これから話すことは事実であり現実だ。しっかりと聞いてほしい」
この体育館内では緊張感で満たされていた。みんなこの国の現状を知っていたからだ。そしてこれから俺たちがどうなるのかも理解していたのだ。
「つい先日の夜。南のクローロン方面の戦線が崩壊し我が国の領土に侵入を果たしてきた。そのときに我々は甚大な被害を受け、多くの兵を失った。今や圧倒的に戦力が足りない状況である」
敵国は川超えを果たしたらしい。川を超えたら後は陸で北上するだけ。我が国は詰みかけているということだ。
そして甚大な被害を受けたということはそれほど相手戦力が強力であったということ。あぁ物騒だ……。
「我々は我らの力不足故に君たちの力を借りられずにはいられない状況を作ってしまった。代表して私が謝ろう」
アドルフィト元帥閣下は軽く頭を下げ謝罪した。
「そして、学徒徴兵という形で君たちの力を借りるわけだが、投入する戦地は人によって様々だ。場合によっては戦線に投入される可能性もあることを留意してほしい」
その後もアドルフィト元帥閣下の説明は続いた。
要約すると、具体的な出兵は明日の朝から始まるらしい。今日はいろいろと物資が送られてそれを身につけること、また不足品の確認と、講義でやったことをそのまま復習するようなことをする。
「では、また戦場で会おう、同士たちよ」
アドルフィト元帥閣下の説明が終わり、俺たちは寮で待機となった。
「ジーク、ほんとにこの日が来ちまったぞ……」
「あぁ、はっきりと軍のトップに言われたね……。戦場で会おうって」
「しかも同士だってよ……。あぁ俺はこれから死ににいくんだ……」
レオはこれからのことを予想して絶望していた。それもそのはず、これから俺たちは戦場に行くわけだ。運が悪ければ即死必至の戦地へ投下される。
「あぁ……、昨日食べた肉が最後の肉か……」
肉、美味しかったな……。
「とりあえず、寮に待機とかいってたけど流石にそわそわして、一人で待機できねぇよ……。物資はすぐに届くはずだから届き次第ジークのところに向かうわ……」
「分かった。寮についたらノックしてくれ」
レオにそう言い俺たちは別れる。
俺は自分の寮に戻り、物資の確認作業を始める。
すでに物資は届いており、寮のドア前にどっさりと置かれていた。
とても重いそれを俺は頑張って自室に持っていき、物資の確認をする。
「これが戦闘服なのか……。講義でやってたとおりだな」
しかし、これを身に着けて実際に戦う日がこんなにも早く来るなんて思わなかった。だが、戦争だ。俺は軍に入隊するためにこの大学に入ったのだ。覚悟はできているつもりだ。
「そしてこれが……。おぉ、最新技術が使われている武器か」
小さな手袋。これが昔でいう杖の代わりらしい。戦争は基本、魔法をぶっ放し合う戦い方だ。昔は剣も使われていたが、魔法のその優位性に気づき今は魔法だけの戦闘となっている。魔法さえあれば遠距離の攻撃はもちろん、剣の代わりにもなる。
そして、その魔法の発動効率を高めるために、最新技術が詰まっている武器がこの小さな手袋だ。初級魔法しか扱えないとしても、この手袋をつければ殺人が可能だ。
そう、人を殺すのだ……。
「俺に、人を殺す覚悟はほんとにできてるのか……?」
戦争する覚悟はしていた。戦地に出る覚悟もしていた。だが、人を殺す覚悟は果たしてできているのだろうか。
そんなことをずっと考えていると――
――コンコンッ。
「お、来たか」
俺はドアの鍵を外し、開ける。
「やぁジーク。確認作業しないでこっち来ちまった」
「だからって物資ごと持って来るか普通……?」
両手にたくさんの物資を持ってきたレオは俺の部屋で確認作業をするらしい。
俺の部屋は物資でいっぱいになった。
「これが噂の戦闘食か……」
「あぁ。味しなさそうな感じだよなぁ」
くっそ……、昨日の肉がすでに恋しくなってきた……。
「しっかし、戦争かぁ~」
レオは背伸びをしてからそうつぶやく。
「ジークは、もし敵が目の前にいたらどうする?」
敵が目の前にいたら……、かぁ……。
「普通だったら魔法ぶっ放して相手殺すんだろうけど、俺なら土煙立てて逃げるね」
「いさぎよいな、ジークは」
俺の決意に笑うレオ。
「だって、敵を一人二人殺っても戦況が変わるとは思えない。それが積み重なれば大きな数の戦力を削ることができるけど、その分気づいたらこっちも戦力が削られてるだろうさ。そんなことしなくても殺さずに戦力を削る方法だってあるさ」
「殺さずに戦力を削るって、それ矛盾してないか?」
レオは物資を確認しながら俺の言葉に疑問を持つ。
「簡単だよ、相手の補給庫をぶっ壊せばいいんだよ。相手は何日も戦場にいる。故に食事を
取るための補給庫が必要なんだ。その補給庫が無くなったら――」
「――相手はほっとくだけで力尽きる……というわけか」
「それか撤退するかだね。現実的に考えると、相手に補給庫を壊され、他に代わりの補給路が無い場合、すぐに撤退をするだろうね。要は相手の急所だけ狙えば一気に戦力を削ることができる」
「はっはっは、でも補給庫って敵地の奥の安全なところにあるんだろ? それをぶっ壊せたら奇跡だよなぁ」
レオはその不可能な方法に対して軽く笑う。そして俺も同感だ。補給庫を簡単にぶっ壊せるのなら戦争はすぐに終わっている。簡単にぶっ壊せないから、人を殺すしか方法は無く、ここまで苦境に立たされているわけなのだ。その証拠に今までその戦法が行われたことが無い。歴史上どこを探しても、相手の補給庫をぶっ壊し敵に勝利した~などそんな文字は教科書にかかれていない。
「もしさ、学生の俺たちが敵の補給庫をぶっ壊して白星取ったらどうする?」
レオが冗談じみたことを言う。
「そしたら俺たちは一気に昇進、学生にして士官になるだろうなぁ」
「はっは、そりゃいいね! そしたら美味しい食べ物はもちろん、酒飲み放題で、可愛い娘たちも侍らせたりできるんかなぁ……」
レオが妄想ワールドに入ったところで俺は物資の確認作業を終える。
しっかりと配給されていたため、不足品はなかった。
「レオ、妄想してないで早く確認作業終わらせろよ? 明日の朝は早いんだし、戦地に行くわけだし……」
「くっそぉ、少しはいい気分させてくれよぉ~、戦地に行くとか物騒なことで俺を現実に引き戻すな!」
「レオ、現実から逃げたらだめだぞ。ここが戦地だったらそれは死を表す」
「知ってるけどさ……。あぁ、ほんと畜生……」
その後もいろいろ雑談をして、戦地に行くという緊張感をお互いで頑張って紛らわしていた。
「もう、こんな時間だ……。明日の戦地、同じだといいな」
「あぁ、同じだったらそのときはよろしく頼むよレオ」
そしてお互い肘を曲げて腕をぶつけ合う。
「じゃあ、達者でな」
「おうよ」
そのままレオは自分の持ってきた物資を持って彼の寮に戻っていった。
時刻はもう21時を過ぎていた。気づいたらまだ夕食を食べていなかったので、こんな時間に材料を買いに行くのもあれだし、保存食で我慢することにした。
「明日から戦地に向かうってのに最後の贅沢できる時間で保存食かよ……」
まぁ、店に行っても肉や魚などの贅沢なものは売れきれているだろうし、どのみち同じか……。
俺は保存食を食べる。どうせこれからもっと味のしないものを食べるだろうからまだ贅沢とは言えるだろう……!
「ごちそうさました!」
よし、後は明日に備えて寝るだけだ。
明日の朝は確か大学の入口前の広場に集合で、そこに魔導車がたくさん来る。それに乗って戦地へゴーだ。一応学籍番号順に並ぶから、どの戦地に送るかは大学側が決めるのかな?
さて、どの戦地に送られるのだろうか。後方か、前方か。それによって俺の寿命が決まる。
「はぁ……。鬱だなぁ……」
俺はベッドに潜り、部屋を暗くする。
そのまま俺は考え事をしないようにして寝た。