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七話 スタート地点

家に帰ると、部屋の電気も付けず、月光だけの薄暗い部屋で制服のシャツを脱ぎ捨てる。

ズボンを脱ごうとすると、ポケットにある長方形の固形物がひっかかった。


「そういえば、入れてたな……」


ポケットからスマホを取り出し、枕の上に投げる。

今朝、丸めて投げ捨てたはずのスウェットはきっちり畳まれ、ピンと張った布団の上に鎮座していた。

ありがたいことに母上様がベッドメイキングしてくれたようだ。

スウェットに着替えて、ベッドに倒れこむ。


「はぁ~~~」


布団に埋もれながら、突然、大きなため息が出た。

意識して出した訳ではない。なぜだか無意識に出てしまったのだ。


「どうしちゃったんだろうな、僕……」


天井を見つめながら自分に問いかける。

もちろん、答えは返ってこない。


そんな虚しさを紛らわすため、大きく伸びをしたその時、指先が枕の上のスマホに触れた。

自分の今の寝ている位置からじゃ、指先少しくらいしか届かないくらいの距離。

それを指先だけで手繰り寄せようと試みる。


「もし、手元まで来たら見る。もし、奥に行っちゃったら見ない」


そう宣言し、指先だけでスマホを手繰り、徐々に近づいてくる。

しかし、枕の反動で少し奥に戻る。フカフカの羽毛枕がアダとなったか。

そんな事を考えながらも、啓太の夜の一人遊びは続く。

そしてついに、手にした。

ガッシリと握ったその手には、マスファンの三天使のカバーが付いた白いスマートフォン。

電源を切っており、画面は真っ暗。

起動ボタンを押し、数秒後、起動音とともにロック画面が表示される。

指でKの文字をなぞり、ロックを解除。

そして、現在、竜の紋章のアイコンが表示されているアプリ、マスターファンタジアを開いた。


そしてすぐにロードが始まった。


何日もログインしていなかったからだろう。

色々と書き換わり、変更されているようだ。

ロードも終わり、自分のパーティー欄をタッチしようとするが、なぜか、なかなか指が進まない。

指が震え、何かを恐れているように、恐怖心が自分の体を支配する。

たかがゲームだろ、と思うかもしれない。

しかし、このゲームは自分が物心ついた時から全力で一生懸命に取り組んできたゲーム。

人生の一部と言っても過言ではない。

それなのに、僕は手放してしまった。AIで会話もできるミウを置いて。

それに対する罪の呵責が僕を縛り付ける。

自分自身と葛藤していると、突然ミッション再開と表示された。


それもダンジョンレベル3の樹海エリア。

僕はスマホを手放す前に、そんな所に入った覚えはない。


AUTOモードになっているみたいで、タッチすると今の状態が見れる。


僕はさっきの罪の呵責や葛藤など忘れ、ただの好奇心のみでミッション再開をタッチした。


そしてそこには信じられない光景が映し出されていた。


「やああああああああああ!!」

「てりゃああああああああああ!!!」

「くっ……!せりゃああああああ!!!!」


そこに映るのは、体中ボロボロに傷つきながらも一人で戦う朱髪の少女。


黒イノシシや、鬼キノコを相手に一人で激しい攻防を繰り広げていく。


「絶対に負けるもんかぁああああああ!!!」


耐久が1にまで減った最低レベルの長剣で敵の群れに立ち向かう。


「うっ……きゃあっ!」


群れのほどんどを倒したと思いきや突然、地面からツルを鞭のように使う樹海のレアモンスター、マドフラワーが現れ、少女の剣を遠くに弾き飛ばす。

その威力で尻もちを着くが、少女はすぐにフラフラした体で立ち上がり、自分に強く言い聞かせるように語りだす。


「私が弱いから……私が弱いせいで、お兄ちゃんに恥をかかせちゃった。

何時間も修行に付き合ってくれて、何回も何回も頭を撫でてくれて……

そんなお兄ちゃんの努力と期待に応えられなかったっ!

私は……悔しい! 悔しいよぅ! 

そして私は勝ちたいっ! あのマリスティアに! 

お兄ちゃんと一緒に!

だからこんなところで負けられないっ! まだまだ私は倒れないよっ!」


足元に転がった木の棒を拾い上げ、マドフラワーと対峙する。


「さあ、こいっ!」


マドフラワーは、地面から養力を吸い上げ、開花した花の中心部分を光らせ、

そして、それを一気に放出した。

あまりの威力と攻撃範囲。圧倒的な格の差にミウは悟る。


これは勝てないと。

だが、それは一人での話。

ミウには、元ランカー1の『お兄ちゃん』増田啓太が付いている。


「ミウ!! 両手を前に出せっ!」

「えっ!? お兄ちゃん!?」

「早く!!!!!」

「はいっ!!」


僕は両手の指10本でスマホの画面をいじる。

右の小指でバックを押し

左の親指でメニューを開き

右の親指で装備を選び

右の人差し指でスクロールし

左の中指で『ユグドラシルの大盾』を選び

右の中指と

右の薬指で防御耐性を最大に強化。

左の人差し指でミウを選び

左の薬指でミウに『ユグドラシルの大盾』を装備。

そして、左の小指でダンジョン画面に戻る!


瞬時に、ミウの手元に防御を最大強化した『ユグドラシルの大盾』が出現。

マドフラワーの攻撃を完全に防ぎきる。


「なにが、起こったの…?」


呆然とするミウ。


「盾を持たせただけだよ。あと、これで回復して」


ミウの手元に体力が全回復する金のポーションを出す。


「は、はいっ!」

「あ、あとこれ武器ね、今最大強化しておいたから使って」

「は、はいっ!」

「あと、今の攻撃はフラワーカノン。レベル30習得の魔法攻撃。

レベルも低くて、魔法にも弱いミウは、盾以外に当たっただけで即死だから気を付けて」

「は、はいっ!」

「えっと、それから、ミウ」

「?」

「絶対勝とう。そして頂点を取ろう」

「うぅっ…………はいっっっ!!!」


嗚咽を堪えながらも、ミウの目からは大量の涙が流れる。


そしてそれは啓太も同じ。


マドフラワーはもう一度養力を吸い、ミウめがけて放つ。


そして二人も、目に涙を溜めながら放つ。


「昇炎一閃!!」

「昇炎一閃!!」


二人の掛け声とともに逆巻く炎がフラワーカノンを二つに裂き、

そのまま真直ぐにマドフラワーを一片残さず、焼き払った。


「ほったらかしてごめん……ミウ。これからもよろしく」

「負けてごめんなさい……お兄ちゃん。これからもよろしくね」


その言葉の後、二人の目からは溜まりに溜まった涙が溢れ出し


ぐんとレベルが上がったのだった。

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