六話 映らない画面
眩しい太陽の日差しが、カーテンを通過し、細かな塵を視化させる。
そんな穏やかな早朝に、騒がしく鳴り響く、目覚まし時計の音。
「啓太ァ~~! 目覚ましうるさいから、早く起きなさい!」
下の階から母の強めの口調が、目覚ましの音よりも、何度も聞いた声の方がよく耳に通るようだ。
「たく……」
渋々とベッドから体を起こし、着古してヨレヨレになったスウェットを投げ捨てた。
身支度を済ませ、制服姿で二階の自室から一階のリビングに向かう。
その途中の廊下、すでに制服に着替え、学校へ行く準備を済ませた妹 増田 雛 とすれ違う。
「なにその髪。だっさ」
そう一言だけの残すと、素早く靴を履き替え、僕への当てつけかのように、ドアを強く閉めて出て行った。
「朝からイライラしやがって……」
雛の反抗期には、もう慣れた事だ。
いちいち気にしている暇も気力も無い。
とりあえず、早く朝飯を食べて学校に行かなければ。
静かに朝食を食べ終え、軽く顔だけ洗い髪を少し整える。
別に、妹に指摘されたから気にしている訳ではけしてない。けしてだ。
支度を終え、靴を履いていると母が二階の階段をドスドスと降りてくる。
「あんた、これ、忘れてるよ」
手渡してきたのは、僕のスマートフォン。
「あ、ああ。ありがと、じゃあ、行ってきます」
母に見送られながら家を出た僕は手渡されたスマホを一目見る。
そして、それをズボンのポケットにしまい、小走りで通学した。
僕の家から学校までは、交通機関を使わなくても通える距離だ。ゆっくり歩いて20分。小走りで10分ちょっとってところか。
学校の近くになると、ちらほら同じ制服の学生が談笑しながら歩いているのが見える。
「この様子なら間に合いそうだな」
周りの学生たちの様子から見て間に合うのだろうと察し
小走りからペースを落とし、歩きへとシフトチェンジする。
「お、今日も歩きスマホはしてないな、感心、感心!」
突然、背後から智喜が、除き込むように現れる。
「わっ! びっくりした!」
「そんな驚くなよ、寝不足かぁ~?」
「ああ、ちょっとね……」
寝不足というワードに反応してふいに欠伸が出る。
「また夜までマスファンしてたのか?」
「いや……それよりさ、帰り、ゲーセン寄って帰らないか? 音ゲーがしたいんだ」
突然の話題喚起に不審がりながらも智喜は了承してくれた。
学校へ着き眠たい授業を受け、昼飯を購買で買って屋上で智喜と食べて、ゲーセンに寄って帰る。
普通の学生らしいなんの変哲もない一日。
だが、その間、僕は一度もスマホを触らなかった。
あの防衛戦から二週間。
僕はランキング一位の座から、730位にまで転落していた。
マスファンにはランキングが定められており、
1~10 ランカー10
11~100 AAA
101~500 AA
501~1000 A
と表記する。
上位10人がランカーの称号を与えらえ、以下AAA~ZZZまである。
なんせ世界シェア90%越えの大人気アプリだ。そのユーザー数も尋常ではない。
ランキング戦は基本最大3体で戦う。
僕の持ちキャラはミウしかおらず、一体しか出すことが出来ない。
なんとか今まで強化してきた装備と、いままで戦ってきた知識と戦略で
このランクをキープしている。
単純な話、僕の妹ミウは弱いのだ。特別なスキルもなければ攻撃もない。
龘との戦いの後、別のユーザーに何度も戦いを挑まれ、何度も負けた。
何度も、何度も。
それと対照的に龘とマリスティアは、防衛戦を何度も成功させている。
聞いた話だと、マリスティアのレア度は今までの実装されていた☆7の更に上。☆8らしい。
しかも最後に放たれたエレクトロ・ノヴァの雷属性威力は200%だったそうだ。
☆1のミウが勝てる訳ないじゃないか。
あの防衛戦、龘は僕たちが力をセーブして戦っていると思ったらしく
マリスティアにも温存の指示を出していたらしい。
しかし、勝負の決め手、ここ一番のところであのざまだ。さぞ拍子抜けした事だろう。
マスファンのネット掲示板では、僕とミウの誹謗中傷で荒れ放題。
まあそれは聞いた話で、僕はそんなもの見ていないから、ダメージは無いが、いい気はしない。
そして僕はここ数日マスファンはおろか、スマホすら碌に見てない日々を過ごしていた。
気力を失った様に生き、惰性で学校に行って、帰り、寝る。それの繰り返し。
僕は完全に抜け殻になってしまったのだ。