四話 戦闘開始
「召喚! ミウ!」
僕の合図とともに、ミウはフィールドに転送される。
バトルフィールドは何種類か存在していて、今回転送されたのは、足元には花と緑が生い茂り、パステル色の広大な青空が広がる地。
遮蔽物がほとんど無く、見晴らしが良いため、奇襲などがほとんど出来ない。
純粋な力の勝負になる花のステージ、【花の楽園】。
バトル形式は【3on3】。
三龍を相手にするにはかなり不利だが……。
「お兄ちゃん見て! この花綺麗! それにいい香り!
私、ここ気に入っちゃった!」
花畑に大の字になり寝転んでいる。今から試合なのに吞気なもんだ。
そしてその様子を見て、実況の女性が大声を出して驚いている。
「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!
まさか、まさか!!!!
幻のジョブが今、明らかになりましたぁ!!!!!!!!」
「『お兄ちゃん』です!!!! 幻のジョブはなんと『お兄ちゃん』です!!!!!」
その言葉の後に続き、この試合を見ている観戦者のコメントが、爆速で流れる。
「すげー!!! 初めて見た」
「ほんとに導入されてたんだ」
「一体で戦うの? やば」
「お兄ちゃんってジョブ?」
コメントを見たところみんな『お兄ちゃん』のジョブは初めて見たようだ。
なんたって確率0.0001%だしな。
「まさか、マスターも天職を捨てて、幻のジョブを選ぶとはね」
龘は驚く様子無く、ボイスで話しかけてくる。
「ああ、こんなレアジョブは二度と手に入れられないかもしれないからな」
「まったく、面白い事になった……。これだから……マスファンはやめられないね!!」
語尾を強調し、龘も自分の使いを召喚する。
「さあ、おいで。僕の可愛い妹、マリスティア!」
長い金髪をたなびかせ、後光差し現れたのは、背が高く、気品溢れたスタイルの良い女性。
鎧からプルンと胸をこぼれんばかりに揺らせ、短いスカートから柔らかそうなふとともをのぞかせる。
途端、コメントが超爆速で流れる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお」
「マリスティアたそぉぉぉぉぉぉ」
「俺こっち」
「えっっっっっ!!!!!」
どれもたいとの出したマリスティアの事について永遠と流れている。
コメントが速すぎて、目が追えなくなり、みるのをやめた。
「お呼びでしょうか? お兄様?」
「ああ、君の力存分と我がライバルに魅せてあげなさい」
「ふふ、承知しましたわ、私の愛しのお兄様」
見た目と齟齬なく口調もとても丁寧で気品溢れている。
こちらの妹は花に埋もれて、よだれを垂らして居眠りをしていた……。
天と地の差だ。
「まさかまさかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
ランカー1と2が幻のジョブ『お兄ちゃん』を手に入れているとはぁぁぁぁ!!!!!
こんな偶然あり得るのかぁあぁぁぁっぁぁあぁああぁぁ????」
実況は猛烈に興奮しているようだ。
しかし、コメントの様子は一変。
「凄すぎ!」
「やらせなんじゃねーの?」
「確かに偶然にしてはやばくない?」
確かに。やらせかと僕も怪しく思う。
こんな事ありるのだろうか。
不信に思っていると龘は突然声を荒らげる。
「ふざけるな!マスターファンタジアがそんなつまらん事をする訳ないだろう!
それに引いた時、ジョブの選択を強いられた。その選択をしたからこそ
私とマスターはここに『お兄ちゃん』としてここに居る! そうだろう!? マスター!」
「あ、ああ……」
まさかいつもクールな龘が、ここまで熱くなるとは思わなかった。
「龘がそこまで言うなら……」
「まあそうだよな」
「俺は信じてるぞ!」
「うわーー俺も引きてーーー」
コメントもあらかた納得してくれているようだ。
これも彼の今までの信用の賜物だろう。
「見ているんだろう!?全国の『お兄ちゃん』諸君!
私とマリスティアはいつでも君たちの挑戦を受ける!! かかってくるがいい!!」
そうカメラの前に指さし、宣言した。
「さ、さてさて!! 熱い熱弁の後ではありますが尺の都合上そろそろ始めさせてもらいますよぉ!!!!」
実況が仕切り直し、開幕のカウントをする。
「ミウ! 起きろ! 始まるぞ!」
「う~ん、もう食べられないですよぉ~えへへ」
なんの夢を見ているのだろうか。
「3」
「2」
「1」
「試合開始!」
開始の合図と同時に、マリスティアがこちらに一直線で迫る。
「まずい! まずい!」
マリスティアの手に小さな光がたくさん集まり、レイピアに変化する。
そして剣先から光の一閃が放たれる。
それがミウの寝ていた場所を吹き飛ばす。
「ミウ!」
僕の問いかけに反応しない。
「もう終わり?」
「マリスティアちゃん可愛いし強い」
「めちゃ胸揺れてた」
「ミウ雑魚すぎない?」
みんな終わったという雰囲気だ。
でもまだミウの反応はロストしていない。
土煙が晴れ、状況が見える。
「zzz」
ミウは土まみれで寝ていた。
閃光はミウの手前で爆発していた様で、頭の上が消し飛んでいた。
「あら? まだ起きませんの? 寝坊助な妹さんですこと。
お兄様、よろしいかしら?」
「ああ、マリスティア。こんなあっさり勝ってしまっては少々興ざめだが……決めるんだ」
「はい」
レイピアを天にかざす。
澄み晴れた空は、あっという間に雷雲に覆われる。
「ラオ・テミス!」
レイピアを振り下ろすと同時に、天から放たれた雷撃はミウを貫いた。
貫いた雷は地に逃げ地面をも吹き飛ばした。
「決まったな」
「マリスティアちゃんの一撃食らいたい」
「マスター乙w」
「あっけねー」
コメントも好き放題言っている。
凡人どもめ。
そして何かに気づいた実況が叫ぶ。
「まだだぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!!!
まだ終わっていなぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!!!」
「バカなっ! マリスティアのラオ・テミスを受けて、倒れていないだと!?」
「そんな…ありえませんわっ……」
二人は驚いている。
「龘、僕は君の戦術を熟知しつくしている。君が妹を引いていた場合、必ず大好きな雷の技を大技に持ってくると読んでいたのさ!!!」
ドンッとポーズを決める。
「すげーーー!!!!!!」
「マスターはやっぱ天才だな」
「ランカー一位だとそこまで読めるのか」
コメントも掌くるりで騒いでいる。
凡人どもめ。
まあ、今言ったのは嘘なんだ。
正直焦った。
龘も『お兄ちゃん』ジョブであんな魔法攻撃を使える妹を引いているなんて、普通分かるわけない。
神龍を倒した後のバハムートのライトニングブレス対策で、ミウの装備全てに雷耐性を最大限に付け雷耐性のみ100%にしていた。
もし他の属性の攻撃だったら、今の一撃で負けていた……。さすが運だけ1200。
「!? なに今の音っ!」
今の一撃でミウもさすがに起きた様子。
「さあ、戦いはここからだ!!」