二話 「初めまして、お兄ちゃん」
僕はジョブ『お兄ちゃん』となった。
お兄ちゃんを職業にしていいのか疑問だが、深くは考えないでおこう。
そんな事より、ガチャで出た新キャラはどんなのなんだろうか。僕はスマホの画面を覗いて見た。
「初めまして、お兄ちゃん」
画面の中では、オレンジの髪と深緑の目。
体型に合っていないダボダボのシャツを着た細身で華奢な
女の子が小さく手を振っていた。
バージョンアップでキャラがこちらに話すモーション機能が付いたのか、凄いな。
「ねぇ~お兄ちゃ~ん聞いてる~?」
キャラをタップもしてないのになんだか凄い問いかけてるな。
そういえばステータスとレアリティを見てなかった。
キャラにとってはとても重要なポイントだ。
ATKDFSSPDがキャラの強さをきめるのだ。
「なになに? B70W52H78」
僕はステータスを読み上げると、画面がやかましく騒ぐ。
「キャー!! お兄ちゃんのエッチっ! 変態っ!」
ステータスを読み上げると突然画面の女の子が顔を赤くして怒りだした。
「なんだ!?」
「なんだじゃないよっ! 女の子のスリーサイズ読み上げるなんてデリカシーに欠けるよっ!」
スリーサイズ? デリカシー? そういえば
ADSじゃなくてBWHだったな……と言うことは、
BustWestHipか!
納得したと同時にもう一つ疑問が出来た。
「あれ? 僕誰と話してるんだ?」
そう言った途端すぐに返事が返された。
「私だよ、わ・た・し!」
画面の中の少女が語りかけてきた。
「ほんとお兄ちゃんはデリカシーないし、頭も悪いみたいだね~。妹として恥ずかしいよ」
などとペラペラ悪口を言ってくるもんだからスマホの電源ボタンを長押しした。
「…………」
「ねぇ聞いてるの?お兄ちゃん」
「…………」
「ねぇってば~」
「…………」
「お~い」
電源が切れない。
なんだこれ新しいウイルスか?
そう思い、とりあえず携帯を上下に振ってみた。
「うわわわ〜目が回るよぉ~~~。吐いちゃうよお兄ちゃ~~ん~~」
との声が聞こえたので手を止めて画面を見てみると
先ほどの女の子が目をクルクル回して、うつ伏せていた。
「ひどいよ、お兄ちゃん……家庭内暴力だよぉ……」
「ごめん」
なんだか申し訳なくなって謝る。
少女はゆっくりと立ち上がりこっちへ向き合った。
「私はお兄ちゃんの妹。名前はミウ」
「ミウ?」
「そうっ初めて名前呼んでくれたぁ~えへへぇ~」
ぴょんぴょんと辺りを飛び回り嬉しさを可愛らしく表現する。
もしかしてこの子が僕が新しく引いたキャラか!?
僕と会話が成り立っているし、人工知能が搭載されているのだろう。
「すごいな、アップデートでキャラと会話出来る機能が追加されたんだ」
技術の進歩に感心していると高く甘い声が横槍を入れる。
「違うよ? 話せるのは妹だけ! 他のキャラクターは話せないよ?」
「そうなの!?」
「うん! だからお兄ちゃんの指示を直接聞いて闘う事ができるんだよっ!」
それは素晴らしいアドバンテージだ。
敵に応じて項目欄を素早くタッチしなくても指示ができるなんてチート級じゃないか。
これなら次の防衛線勝てる。そうとなればレベル上げだ。
ダンジョンで拾った経験値アイテムをキャラに入れる事で
新キャラでも一気にレベルを上げる事ができる。
僕はそのアイテムを常に9999999個持っているので、
どの新キャラでも一気にレベルMAXにできる。
だが、レベルを上げる項目を見てもミウを選択する事ができない。
「なんだ? ミウのレベルが上げられないぞ? バグか??」
アップデート後はバグがつきもの。
でもマスファンは今まで一度も、そんな事なかった。
「素材では私のレベルは上がらないよ?」
「なにぃ!? じゃあ何で上がるのさ?」
「親密度!」
「親密度?」
「うん、右下のハートマークを見て?」
言われた通り見てみると灰色のハートがある。
「ここのゲージをマックスにすると一レベ上がるの」
なるほど分かった。要は恋愛ゲームみたいな要素も加わったって事だな。
僕はやった事はないけど、噂には聞いた事がある。
「とにかく、君を喜ばせてけばレベルが上がるという事?」
「うん、簡単に言うとそうだね!」
ふと、思い出す。
さっきのがスリーサイズならステータスやレア度はなんなのだろうと。
項目欄を開きパラメーターを見る。
☆1 ミウ LV.1 種族 妹 剣士
体力 HP 50
魔法ポイントMP 10
物理攻撃 STR 30
魔法攻撃 INT 2
物理防御 DEX 15
魔法防御 MND 8
素早さ SPD 62
運 LUK 600
スキル なし
ナンダコレ。
最低レア度にこの悲惨なステータス。
僕のラファエルと比べてみる。
☆7 ラファエル LV.999 種族 大天使
体力 HP 99999
魔法ポイントMP 99999
物理攻撃 STR 78661
魔法攻撃 INT 96986
物理防御 DEX 85604
魔法防御 MND 93978
素早さ SPD 87045
運 LUK 76606
スキル 《大天使の癒し》
百歩譲ってラファエルとの差は目を瞑ろう。
しかし、☆1のスライムでも全部100はある。
ミウは弱い。圧倒的に弱すぎる。
だが、僕はめげなかった。
「何か必ず特殊なスキルを持っているはず!
どんどんレベルを上げて、ミウを最強の妹にしてみせる!」
マスファン魂に火がついた。
しかしこの後、マスファンに夢中で授業をサボってしまい
先生にド酷く怒られる事を僕はまだ知らない。