一話 新たなジョブ
4月の半ば。
僕、増田啓太は学校の昼休み、まだ肌寒い屋上で、ひたすらスマホに向き合う。
容姿も体型も一般的普通の高校生。
冷える体を丸めながらしているのはソーシャルゲームだ。
『マスターファンタジア』通称マスファン。
全世界でアプリシェア90%越えしている老若男女問わず遊べる超人気ゲーム。
このゲームは自分がマスターとなりモンスターや武器装備を集めて戦う仕様になっている。
まず、自分のジョブを選び、パートナーモンスターを引く所から始まる。
操作は、画面を横にして両手で攻撃と回避をするという極めてシンプルなゲーム性でありながら
モンスターや装備の属性相性、駆け引きなども勝利には重要なファクターとなっている。
友達と共闘や対戦もできて世界ランキングなどもあり強豪プレーヤー達が常に腕を競い合っている。僕もその一人だ。ハンドルネーム 『マスターK』。
世界ランキング1位のトッププレイヤーだ。肩書きは無双のドラゴンキラー。
現環境ではドラゴン一択と言われるほどドラゴンが強いのだが、
僕はそのドラゴンを狩るのを得意としているがゆえに付けられた呼び名。
そんな僕のジョブは『神聖剣士』。
従えるのは全て最高レアで最強の大天使ラファエル、ミカエル、ガブリエル。
装備はもちろん全て最大強化のレベルマだ。
そして今は次の防衛戦に向けて鍛錬をしているところなのだ。
友達なんかと和気あいあいと遊んでる暇はない。
すると突然屋上のドアが開いた。
「やっぱここに居た! うわ寒っ!」
突然ドアを開けて騒がしく走ってきたのは、
僕と同じクラスのマスファン友達の泰堂智喜だった。
「おい! マスター! 大ニュース! 大ニュースだ!」
「マスターはやめてくれって言ってるだろ!」
かなり昔からマスファンをやっていたので、仲間内では
増田を文字ってマスターというあだ名が定着していた。
「そんなことより大ニュースなんだよ!」
「なにさ大ニュースって」
「マスファンがバージョンアップするって!」
「そんなの良くあるじゃん? やっとドラゴンのパラメーター下方修正するのかな?」
「そんなんじゃなくて! ジョブが増えるんだってよ!」
「なんだって!?!?!?」
僕はあまりの驚きに飛び上がった。
まさかリリースから数十年間数多くのジョブがあったが
それが追加されるということは一度も無かった。
これは環境うんぬんどころかマスファンがひっくり返る出来事かもしれない。
「それでどんなジョブが増えるんだ!?」
「落ち着けよ! それはまだシークレットらしいんだ。未公開のまま実装するらしい」
「それはいつバージョンアップなんだ!?」
「今日」
「今日!? そんなの聞いてないよ!」
「さっき公式サイト覗いてたら、いきなりアップされたんだ。
テイッターとか見てみろよ、話題になってるはずだぜ」
僕は急いでテイッターを開いてみるとトレンドの一覧はマスファンのことばかり。
どこのサイトも全部新ジョブの話で持ちきりだった。
「そうだ! 俺飯食ってたんだった! 早く食わなきゃ! 授業始まっちまう!」
智喜は先戻るぞーと、慌ただしく駆けて行った。
僕はその情報に心踊らせた。
なにせ新しいジョブだ、どんな環境になるのか楽しみでしょうがない。
突如肌寒い風が強く吹き付けた。
「寒っ!僕も戻ろう」
そう呟いた時、ブーっとスマホのバイブが鳴った。
スマホを見てみると、なんとマスファンが更新されていたのだ。
僕は例の新ジョブが追加されたのだと確信した。
それと同時に昼休み終了のチャイムが鳴る。
だが、そんなことにはお構い無しでマスファンを開く。
すると、初回限定一度きりの特別ガチャと言うものが設定されていた。
その内容は特別ガチャで特定のキャラを引くと、新たなジョブを
手に入れる事ができるらしい。排出率は0.0001%。
「なんだよこれ!」
僕は怒りを露わにし、声を荒立たせた。
「こんなもの課金で手に入れることもできない完全な運ゲーじゃないか!
これで新ジョブを引いたやつがトップランカーになるんだろ!」
絶対無理だと思いつつ半ばヤケクソでガチャを回す。
すると見た事のない演出が始まった。
画面が虹色に輝き紙吹雪が舞い賑やかなBGMが流れ出す。
「え? これってまさか……!」
おめでとうございます。あなたは新たなキャラを手にして、新たなジョブ適合者に選ばれました。
新たなジョブになるには今の『神聖剣士』をやめなければなりません。
キャラを手放し、ジョブを諦めれば、もう1度引き直せます。
あなたは新たなジョブを手に入れますか?
はい◀
いいえ
こんなもの決まっている。もちろん
はい だ!!!!
僕は迷わず最強の称号『神聖剣士』のジョブを辞め
新たに追加されたジョブ
『お兄ちゃん』となったのだ。