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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

izumiの短編集

初めて水死体を見たときの話

作者:izumi
少し長めの短編です。よろしければ、感想などお願いします。
わたしは、モネの『睡蓮』が怖くてなりません。

変に思われる方もいらっしゃると思いますが、本当のことなんです。

湖に浮かぶ睡蓮を描いた一連の美しい作品群が、恐ろしくてたまらないのです。
あの美しい絵画のどこが?と思うかもしれませんが、あの輪郭線をぼかしたように描いた技法が、恐ろしくてたまらないのです。

わたしが初めて水死体を見たのは、物心がつくかつかないかくらいの、4歳の頃でした。

お盆のときだったと思います。ヒグラシがカナカナ、カナカナと鳴いていたかもしれません。

当時、わたしには、Mという親戚の子がいて、たまにうちの家に泊まりに来ていました。Mは3歳のやんちゃ盛りの女の子でした。

母親のSおばさんは、この時、離婚していて、たしか1人でMを育てていたと思います。そして、お盆などにうちに遊びに来ると、
「イズミちゃん、Mと遊んであげてね」とか、言うのでした。

はっきり言って、わたしは、Mが嫌いでした。

知っている方は知っているように、4歳と3歳は大きく違うところがあります。

わたしは、
「Mちゃん、一緒に遊ぼう」といちおう声をかけるのですが、Mは激しくかぶりを振って、よく回らない舌で、「いやっ!いーやっ!」というように、全力で拒否してくるのです。

おもちゃのブロックでお城を組み立てるときも嫌がり、人形を使った遊びでも、お絵かきでも、おもちゃのピアノでも、わたしが手を出すと、激しく嫌がり、1人で遊びたがるのです。

後で児童心理学を勉強したことでわかったのですが、どうも3歳というのは、1人で遊びたがる年頃らしいです。自分で判断して動こうとする自立の年頃で、分かりやすく言えば、反抗期でしょうか。

ネジまき式のシンバルを叩くおさるさんのおもちゃがあったのですが、ネジを巻いてあげようと、手を伸ばしたら、おもちゃのブロックを顔面に投げつけられたこともあります。笑いごとではありません。プラスチックとはいえ、けっこう痛かったです。

わたしには3歳年上の兄がいたのですが、兄は友だちと外に遊びに行ってしまうので、あまりMに関わっていなかったと思います。
だから、ほとんどわたし1人で、厄介なMの子守りをさせられていたという感じです。

わたしにも反抗期があったのかもしれませんが、このときわたしはすでに保育園に通っていて、みんなで遊ぶ、という感覚に慣れていたのだと思います。Mはまだ、みんなで遊ぶ、ということに慣れていなかったのだと思います。

話の核心に入る前に、わたしの家の状況を説明します。

うちは農家で、牛を飼っていました。

うちの家の裏には竹やぶが広がっていて、大きな沼がありました。庭は広くて、家の前には畑がありました。

夕方、Mが、母親のSおばさんとお風呂に入りました。

わたしと兄は、テレビでアタックナンバーワンか何かのアニメの再放送を見ていました。兄はどうか知りませんが、わたしは、けっこう好きなやつでした。

しばらくして、お風呂場のドアが開き、Mだけが出てきました。薄手の白いシャツを着たMの体からは、ほかほかと湯気が立ち上っていました。Sおばさんがドアの隙間から顔だけ出して、こう言いました。

「あんたたち、ちょっとMのこと見てて。おばさんもすぐ上がるから」

Sおばさんはまだ、お風呂に入っているようでした。Mはまだ3歳で、じっとしていられなくて、世話が焼けますから、先にMだけを上げてしまったようです。

「はーい!」
わたしと兄はテレビを見ながら返事をしました。

「おまえが見てろよな」
兄がずるそうな顔で口を尖らせて言うので、わたしも「何でよ、兄ちゃんが見てればいいじゃん」
と言い返しました。兄はいつもこういうところがあったのです。

2人とも、テレビを見ていたかったのです。兄も世話の焼けるMの面倒など、みたくないようでした。わたしもうんざりです。昼間、Mにいろいろなおもちゃをぶつけられて、さんざんな目に遭っているのですから。

こんな小競り合いをしている最中に、早くもMはサンダルをはいて、お気に入りのおもちゃのバケツとスコップを持って、外に出ていこうとしているのです。

お風呂上がりだというのに、もう体を汚しにいくのです。そんなMが何となく嫌でした。

「…………」
わたしは、黙って、テレビを見ていました。
Mが外に出ていくのを知りながら、ほったらかしにしました。

たぶん、庭で穴堀りでもして、泥遊びでもするつもりなのでしょう。それくらいなら、別に構わないと決め込んでしまいました。下手にそばに行って、スコップを投げつけられたらたまりません。

しばらくして、Sおばさんがお風呂から上がりました。
「あれ、Mは?」
「さっき、外に出ていったよ」

わたしがそっけなく言うと、Sおばさんは、怒りました。
「何で、Mのこと見ててくれないのよ!本当にあんたたちは役立たずなんだから!」

そう怒鳴ってすぐに外に出ていこうとしました。

「あれは、ほっといたら、どこまでも走っていっちゃうのよ。ほら、探して探して!」

おばさんにせっつかれて、わたしと兄もあわてて外に探しにいきました。

おばさんの言うとおり、Mは、庭にいませんでした。

夏でしたので、辺りはまだそれほど暗くはなっていませんでした。兄が「Mー!どこだー?」と大声で叫びながら、牛小屋の方へ走り出しました。

ヒグラシがカナカナカナカナ……と鳴いています。
「Mー!Mー!」

おばさんは、畑の方に行き、その辺りで大声で呼びかけると、今度は戻ってきて、竹やぶの方に行き、また、Mを探していました。

わたしは沼のある方から、竹やぶに回ろうとしました。ちょうど、おばさんと反対方向から、竹やぶに行こうとしたのです。

途中に沼がありました。それは、うちの父が生活排水をためるために、ホイールローダーという巨大なバケットのついたブルドーザーみたいな乗り物で掘った穴でした。

うちは田舎であるため、下水道が整備されておらず、家の裏に穴を掘って、お風呂や洗濯などの排水をためていたのです。うちだけではなく、うちの近所の家はほとんど、そうでした。

薄暗くてもわたしには見えました。その排水のたまった沼の表面には、汚ならしい泡や竹の笹や空き缶やお菓子の袋などが浮いていました。

沼の上には、ブヨの集まりが、ちらちらと固まって飛んでいました。やぶ蚊もたくさん飛んでいました。多少生臭い悪臭も漂っています。おもちゃのバケツも浮いていました。沼の縁に、Mが持ち出したおもちゃのスコップが転がっていました。

「Mー、どこー?」
わたしが沼を横目に、そのまま竹やぶの方に行こうとしたときです。

沼に見慣れないものが、浮かんでいるのに気がつきました。薄暗いうえに、周囲の雑木林が黒々とした陰を沼の上に落としていたので、危うく見逃すところでした。

見慣れないもの……それは、大きな人形でした。わたしのすぐ近くにあお向けで浮かんでいるのです。
マネキンみたいに服を着ているようでしたが、汚れた沼の色に染められて、柄はわかりません。

わたしは、最初、Mの持っている人形だと思いました。バケツとスコップだけじゃなくて、人形も持ち出したのか、と考えたのです。

沼に浮いているマネキンの目は、黒々としたガラス玉のようでした。
不思議なことに、人形の顔は、ぼんやり光っているようで、輪郭線がぼやけて見えました。そのせいか、わたしは思わずじっと観察してしまったのです。

汚ない葉っぱや虫の死骸のこびりついた泥まみれのその白い顔は、ロウ人形のように、カサついていて……。

わたしは観察をやめて、足早に沼を後にして、竹やぶに行きました。なぜか知らないけれど、早くSおばさんに会いたくなったのです。足はじんわりとしびれていて、なぜか尿意を催していました。

「Sおばさん……?ねえ、おばさん」
辺りをキョロキョロとうかがいますが、見たところ、竹やぶには、おばさんはいないようです。

カナカナカナカナ……。というヒグラシの鳴き声がなぜかわたしのしゃくにさわりました。

「おばさん、どこっ?おばさんっ!」
わたしは、ガサガサと湿った地面を踏み荒らしながら、なぜか声をあらげてしまいました。
すると、庭の方から、Mを呼ぶおばさんの声が……。

庭に行くと、おばさんと兄がいました。おばさんはいつの間にか庭にもどっていたのです。兄は中腰になり、肩で息をしていました。だいぶ遠くまで走って戻ってきたみたいでした。何してるんだよ、という兄に対する激しいいきどおりがわたしの心を支配しました。

「M、いたよ」
わたしは無表情のまま、おばさんに言って、沼の方を指差しました。なぜ、そんなことをしたのか、いまだにわかりません。だって、沼にいたのは、マネキンですから。絶対にあれは、マネキン人形なんですから。

沼の方へ走り出したおばさんのあとに続いて兄が、その後からわたしが、ゆっくり歩いていきました。

「わあああーっ!Mー!」
おばさんの悲鳴が、静寂を破りました。言葉にならない言葉を出しながら、おばさんはザブンと腰まで沼に入ってしまい、Mを抱き抱えて、上がりました。ジタジタと汚れた臭い水が2人から流れ出しました。

「Mー!Mー、いやだあ!」
泥まみれになったおばさんは激しく泣きじゃくりながら、Mを玄関前に連れていって横にさせると、汚れたロウ人形と化してしまったMに、人工呼吸をしました。

わたしと兄は黙ってそれを見ていました。Mはまったく微動だにしません。おばさんは人工呼吸を繰り返しました。

「おまえが助けてやれよ」
兄が妙に無関心な様子で言い、わたしの肩を小突きました。

「おばさんを呼ぶひまがあったら、先に、Mを助けてやれば良かったじゃねえか」
「だって……」

汚かったんだもん。

わたしは、その言葉を飲み込みました。そうでした。そうだと思います。

わたしは、沼でMを見たとき、あまりの汚さのために、こいつはただの人形だと思い込もうとしていたのです。Mだと認識してしまっては、助けなくちゃいけなくなる。

その汚ないMに触らなければならなくなる。それがいやだったがために、ただのマネキンが浮いていると思い込もうとしたのです。

わたしは、最低な人間です。

おばさんが、うちの玄関にあった黒電話で、救急車を呼びました。ここら辺のことは、書くのがつらいです。

そうです。Mは、泥遊びをしようとして、生活排水の沼に近づき、そのまま落ちて、溺死してしまったのです。そのため、おもちゃのバケツが沼に浮いていたのです。

救急車が、来ると救命士の方が、Mの瞳孔をペンライトのようなもので確かめました。そして、脈をはかりました。
「申し訳ないんですけど、もう手遅れですよ。これ」

救命士のおじさんは、迷惑そうな顔をして、冷たく言い放ちました。

「いやだああーっ!Mー!Mー!」
おばさんはその場に崩れ落ち、Mを抱きしめて泣きじゃくりました。わたしと兄は、後ろから黙ってそれを見ていました。

今、思い出してもつらいです。

本当に悪いことをしたなと思っています。

あのとき、ちゃんとMを見てあげていればこんなことにはならなかったと思います。

ここで正直に書けて良かったと思います。Mちゃん、ごめんね。Sおばさん、本当にすみませんでした。

わたしはMが外に出ていくのを見ていました。でも、おもちゃを投げつけられたり、大騒ぎされるのが嫌で、一緒に外には行きませんでした。

その日の夜、おばさんは冷たくなったMと一緒に寝ました。わたしと兄は、おばさんの隣の和室で寝ていたのですが、夜中に、静かに泣きじゃくるおばさんの声を聞きました。

「M、ごめんね。お母さんが悪かったね。苦しかったね。苦しい思いさせてごめんね」

わたしは、布団の中でおばさんの泣き声を聞きながら、ぴくりとも動けませんでした。

兄がいまいましそうに寝返りを打ちました。




大人になってから、調べてわかったことがあります。

人が死ぬと体の緊張が解けて、体中すべての毛穴が開いてしまうこと。そして、瞳孔も完全に開いてしまうため、瞳がほとんど真っ黒になってしまうこと。さらに、顔の透明なうぶ毛が、みんな立ってしまうこと。

それらを総合して、判断すると。

溺死したMの場合、水に浸かっていたため、開いた毛穴から水が侵入して皮膚がふくらみ、ロウ人形のように見えたようです。

さらに顔の透明なうぶ毛がみんな立ってしまい、光の乱反射が起きるので、そのため、水死体の第一発見者となった4歳のわたしには、Mの顔の輪郭が、光ってぼやけているように見えたのです。

はっきりしたことはわかりません。

話を、モネの『睡蓮』にもどします。

わたしは、モネは水死体を発見したことがあるのだと思います。あの輪郭線がぼやけて見える感じを、絵画に、応用したと思うのです。

モネの『睡蓮』は、必ずと言っていいほど、美術の教科書に載っています。中学生の時、『睡蓮』を見て、恐怖にかられたのは、わたしだけだと思います。

えっ?大人になった今はどうかって?

もちろん、いまだに怖くて見れませんよ。何だったら、絵じゃなくて、睡蓮じたいが怖いですよ。

わたし、変ですよね。





おわり
なーんちゃって!全部、作り話でしたー
( ^Д^)お疲れさまでした。

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