息抜きの描き
八木は工藤と居酒屋で飲みに行った後、どうしても訪れたい場所があった。そこは庶民が近づくところではないといっているようであった。車を走らせるわけにはいかないため地下鉄で向かった。駅から徒歩で行ける距離であるということは金持ちであると宣言しているようだ。構想マンションのそこそこの階を押した。八木家に深くかかわる人物で圭太だけに合鍵を持たせるほどの信頼をしている。インターホンを押す。簡単に玄関を開けた。
「圭太か。久しぶりじゃないか。まぁ上がれ。」
「源太郎さん、来るまで何をしていたんだ。」
八木源太郎は八木家の歯車を変えた人である。警察一家の道を崩して画家となったのだ。圭太が弁護士を目指して奮闘しているときとても応援してくれた人だ。八木家としての縁を切っても圭太とは切らなかった。近いといって。リビングに連れていかれた。絵がたくさん飾られている。
「売れた?」
「大きな賞を取ったからかよく買ってくれるんだよ。生活するのに助かってる。どうした?事件か。」
ダイニングテーブルといっても2人で十分といえるサイズだ。缶ビールを置いた。
「阿部登とか言って趣味で絵をかいていたらしいんだ。その人の別荘が見つかればいいなと思ってね。知らないか。」
「阿部登は知らないけど路上で書いてた人が小さな個展を開いたっていう噂は聞いたよ。確か鏡東映といってじゃないのかな。会社員だって。」
プルタブを鳴らす音で驚きを消したが源太郎が言っている人はつながっていると思った。点と点が線になる瞬間を待っている。
「阿部登は元エリア情報システムの社員だ。会社の秘密を知っていたという人間だよ。何か思わないか。」
「お前に伝えたこととつながっているよ。お前は世の中を縛っているんだ。自由にすればいい。鏡東映については調べてみるよ。画家仲間は喋ってくれるよ。口を閉じさせることもできるんだ。」
源太郎は悪気のない軽犯罪の犯人のように笑った。世の中を簡単に縛ってしまうほどの内容があるのなら警察もしなければいいのにと思ってしまうのは違うのだろうか。正論という単なる空想だろうか。どちらにしろ守るはあるのだろうか。
「今日は泊まっていけ。アトリエが広いから落ち着くぞ。」
「有難う。」
源太郎がアトリエと呼んでいる部屋に行った。そこは絵があふれかえっている。写生したものだったり空想で描いたものだったり自由に書いている。だから源太郎を尊敬してしまう。したいことをただしたいと。