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再会の伝え

八木は居心地のよさを感じることはなかった。後藤が裏社会でしか通用しないようなことをしているからだ。

「俺がこの仕事についたのは借金を返すためだったからさ。それが仕事になっている。今は納得しているけどな。」

「個展とか開いていたのか?」

「まぁ・・・。場所代だけの金が多くかかってさ。客なんてあんまりこないような立地のところしか借りれなかったのも原因だけどな。」

大学のギャラリーを借りるのはきっと後藤のプライドが許さなかったのだろう。卒業生だと安く借りれるのだ。使ったという人は数えるほどしかいないのだ。

「俺の駆け出しのころはコンクールにしか出してなくてな。親父に認めてもらうための作業していたんだ。」

「それがあるから今があるじゃないか。教授の話なんていい話じゃないか。何で断ったんだ。」

八木は小さくうずくまった。端から見れば腹痛を抱えているようにしか見えないだろう。後藤はそんな話が来ない環境で在るからいい話に聞こえたのだろう。

「俺は肩書きなんか興味がないんだ。ただ弟のために動いているだけだ。一度くればいい。お前はねたんでいるのかもしれないが。嫉妬されるほど俺はすごい人間でもない。大学にいたころの俺とは違うんだよ!」

最後の言葉は叫びのように声が出た。源太郎には気がかりしかないのだ。何時同じようなことがおきるのではとおびえるしかないのだ。

「お前に教授の話を伝えておくよ。俺からの話じゃきっとだめだろうから。声をかけてくれた人の電話番号があるから暇なときに連絡しろ。その大学、ほしがってたから。」

彼はかばんからメモを出し書き出した。後藤にとっては転がってくると思っていなかった話であるからうれしそうに受け取った。

「後藤にも腕が在るからきっとやっていけるよ。それじゃかえるよ。」

「待ってくれよ。お前はいったい何のためにやってるんだ。画家というのについたのはまるで弟のためのようじゃないか。」

八木はそうだという風に縦に大きくうなずいた。わからないことばかりだろう。

「圭太が幼いころ、絵をほめてくれた。それで画家になると決意した。圭太は弁護士になる夢を持っていたが親父によってつぶされた。昔、自殺未遂をしているんだ。お袋を失ってうそをついてまで死のうとしたあいつを守れるのは俺しかいないんだ。」

「そんなことないさ。ただの考えすぎだ。苦労したのは知っているから自分らしく生きろよ。弟も文句は言わないだろう。」

考えすぎではないのだ。最近もどこか予感するような言葉を残していた。それを帳消しするように現れたが違って見えた。頼みに来るのも少なくなった。もともと電話をするタイプではないのだが、かかってこないと心配が募るのだ。事件ばかり追っているように見えてそうではないと教えてくれたら。

「後藤も早く警察に見つからないうちに足洗ってしまえよ。俺みたいに後悔ばかりしないでくれよ。あと、忠告しておくけど弟の悪口言ったら会わないし入れないからな。」

「わかった。」

久しぶりの再会で何が見えたのだろうか。現実の難しさとかだろうか。変わったとかいう話がなかったのは時代が変えたなどと言い訳をしたくなかったからだろうか。外へ出ても心が晴れるどころか曇っていくのを遠くで誰かが見ている。

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