他愛もない会話
喫茶店に呼ばれているのだ。待ち合わせている人物は名前しか教えてもらえなかった。窓際に座っていると伝えられた。入ってみると昼下がりであるため空席がかなり見られた。
「後藤喜朗という人が来ていませんか?呼ばれてきたんです。」
「来てるよ。あそこにね。」
マスターらしき人物が指をさした。さしたところにいたのは暇そうにしている男性だった。近くまで行くと机をたたいた。
「あぁ、来たんですね。・・・。あれ?八木源太郎じゃないか。嘉門とか言われて誰かと思ってしまったよ。」
「後藤こそあんな仕事していたなんて知らなかった。マスターにコーヒーでも頼んで来いよ。優先的に出してくれるから。」
後藤は常連であるように思えた。マスターに彼は頼んできたのだ。
「俺もお前みたいに画家になりたかったよ。こんなことする前は売れない画家してたんだ。けど、まぁほどほどにしておかないとな。」
「俺だって画家になったといってもマイナーな画家に過ぎないんだぜ。テレビで出してもらえる人だっている。それに比べれば俺は大したことないんだ。」
ウエイターが少し話を遮るようにコーヒーを出してきた。大学以来の事でたわいもない話に花が咲く。2人の後ろにある現実というもので抑えられているのだ。
「お前は大学の中ではそこまで目立ってなかったのに皆驚いていたよ。それも弟のためだろう。」
「圭太は刑事になった。弁護士になってもこのご時世やっていけるとか確信があるわけじゃないけど、なって欲しかった。俺が画家という道を選んだ所為でな。」
ぬるくなったコーヒーを一口飲んだ。薄いというわけではなく濃すぎると思って勢いで飲むわけでもないのだ。
「そういえば、最近事件起きているよな。画家が1人殺されて元サラリーマンと画材店の店主だ。どうつながりあると思う?」
「お前のところには入ってきてないのか。ある意味3人の画家が殺されたんだ。画材店の店主は村沢巧って言って有名人の息子だよ。阿部登は趣味で絵をかいていてペンネームまでもって個展を開いていたみたいだよ。」
後藤の愕然として表情を八木は眺めた。偉大な人も含まれていたから。大学の時、2人で見た個展は村沢巧であったから。
「いる場所が違うだけでこんなに違ってくるんだな。同じように習ってきたのに使い方も全く別ものになってしまったな。戻れるなら戻りたい。お前の教授姿も見たしな。」
「俺は大学の教授話を聞いたとき断ったよ。まだ練習の身だから教えることなんてできないと。」




