自由の自由
一ノ瀬はあるビルへと向かった。宇佐美のいた週刊誌の入っているビルだった。入ってみると雑然とした空気であった。近くにいた関係者に声をかけた。
「宇佐美さんについて知りたいんですが、詳しい人がいませんか?」
警察手帳を出していった。一ノ瀬が此処へ来たのは八木幸助が隠そうとした事件がある程度収まっているからだ。政治家も証拠があったので言い訳を言うのはおかしいと思ったのだろう。
「社長に聞いてください。社長も宇佐美さんをよく思っていましたから。」
社長室へと行くとどこか感じが違うのを思う。豪華なものを並べることはせず、格安のものを豪華に飾っていた。
「刑事さんがこちらに来るのは初めてですね。八木さんと工藤さんのような感じがする人はここに入れるように言っておいたんです。それであなたを此処に連れてきたんです。」
社長は淡々といった。苦悩があるはずなのにそれを感じさせない雰囲気であった。
「そうだったんですか。同じ警視庁捜査一課という肩書を付けていても違うんですよ。俺を変えたのは八木という刑事だったんです。復讐を選ぶことを捨てさせたんです。」
彼の言葉を聞いて社長はわかってくれたのか繰り返し頷いた。テーブルにコーヒーが出てきた。黒になったり茶色になったりと苦労をしながら他人の心を癒すのだと思った。
「政治家は報道の自由、表現の自由を脅かそうとしているんです。多くのメディアは政治家に買われて都合のいい言葉しか書かないのですよ。俺たちだって会社のためと思っているならしてしまうかもしれないですよ。けれど、そんなことはできなかった読者を裏切る行為なんてできないんです。」
苦渋の色をにじませながらいった。政治家は失言が仕事なのだろうか。マスコミに忖度させることが仕事なのだろうか。終わっていないことを終わったと評価することが仕事なのだろうか。官僚が省庁が政治家が嘘をついて真実を隠すのが仕事なのだろうか。偉そうにわかっていないことに口出しするのが仕事なのだろうか。問うべき問題がたくさんあるというのに無視をするのだから。
「政治家も他人事が得意ですからね。自分の身の事しか親身になれないんですよ。関わりないとそっぽ向いてしまうんですから。週刊誌なんてやりづらいですね。」
「やらないときっと後悔すると思っているんです。政治家は大人のさび付いた鏡ですからね。真実が壊すことができると思ってます。嘘をつくのが当然っていう考えなんておかしいじゃないですか。」
顔を赤く染めていった。




