1枚の絵
聞こえない声があるわけではないが届いていないことがあった。個展が開催されるので呼ばれてギャラリーへと行くと大勢の人が来ていた。管理人が隅へと誘導してくれた。
「このギャラリーを開いてここまで人が来たのは初めてですよ。やはりコンクールとかを取った人は違いますね。」
「そうですか。俺にとっては親父の口をふさぐ印籠ようなもので好きではありません。売れようが売れまいがその人に何が伝わればいいんです。圭太が望んでいることですから。」
彼は椅子に座って客を観察しているようだった。管理人に提示した価格は異常なほど低かった。周りは冷やかしのように群がっていると思っているのだろうか。管理人室へと案内した。
「ここでいて下さい。きている人からもらったりしたものはどうしましょうか。」
「受け取りはします。事件になると圭太に心配をかけてしまうのは嫌でしょうがないので。・・・。そういえば。圭太が此処に来た理由を差し支えなければ教えてくれませんか。」
コーヒーを出す管理人は頬を緩めた。兄弟ということは分かっているであろうから。教えることに抵抗がないようだった。
「村沢巧という元画家で今は画材店をしていた人が殺されたんで来られたんです。此処はよく利用していたとかわかっていたんだと思います。辞めた理由はなんだとか聞かれたはずです。そこで最後に書いた絵を見せました。『炎の悪魔』をね。冊子も渡しました。」
「そうですか。この事件が終わればいいんですよ。才能がある人が殺されていくのを黙ってみていることなんてできないですから。」
なるはずのない扉のノック音が聞こえた。入ってきたのは知り合いの画家だった。個展の開催を祝ってくれるのだ。彼は個展を出せないのに嬉しそうな笑顔でやってくる。
「お前にはいくつものことで抜かれてしまうな。これ、圭太君と一緒に食べてよ。」
「いつもありがとう。事件が終われらないと真剣にできないと思っているんだ。」
彼は机の上に置いてあったコーヒーを飲み始めた。何か話すことがあるのだろうと察した。ソファに置物のように座った。
「お前さ。宇佐美に最近あったか?」
「いいや。会ってない。どうかしたのか。」
「俺たちの画家のグループでは見ないから死んだんじゃないかみたいな噂が広がっているからさ。嘘なら訂正しないといけないと思ってね。」
彼は噂を信じるにたる情報がないと信じないという人物である事は知っている。キーワードがあった。『炎の悪魔』とはいったいどういう絵なのだろうか。これは通じることはあるはずだから。
「宇佐美に会いにってやってよ。俺は個展で出たりするから。」
「わかった。行ってみるよ。何かあったら圭太君に言えばいいんだよな。」
源太郎の顔が縦に動いた。彼の言葉に救われているのを毎回思うが言えないのがもどかしいばかりだ。




