鍵の隠し場所
「兄貴は個展とかって選んだりするのか。」
「俺は選ばないけど、村沢さんはギャラリーを選んでいた。有名な政治家によって作られたところによく出していたみたいだけどね。」
圭太はビールを飲みながらテレビを見た。芸能界とか政治家による汚職が取り上げられる。都合よく消される話だってある。選挙になぜ行かないかを考えずに人の所為にするのはどうだろうか。政治に興味を持たせても失望するだけだ。金を回収して豪邸にのうのうといる。選挙になるたび、金をばらまいている。ばらまいてはいけないのだ。投資をしなければ。けれど、その投資すらできない奴が偉そうに無駄な椅子に座る。孤立すると必ず助けを求めるためにしっぽを振っている。どうせ使い捨てにすぎないのだ。
「テレビってすぐ消える話とかあるけど、人の心の中では消えないことだってあるんだよ。政治家は金で腕を鳴らすんだ。影で悪さをして表では偽善者ぶるなんて・・・。」
「そんなもんさ。マニフェストなんて嘘をつくための道具に過ぎないのだから。だから、選挙なんて行かなくなるんだよ。やった試しのないことをうわべで言い続ける神経がバカだといえるよ。見えない。聞こえない。ただの金の無駄をしているだけじゃないか。」
テーブルには空き缶がたくさんある。それはまるで心にたまっていることを吐き出したかのように見える。源太郎はゆっくりと筆を進める。キャンパスは色の海に染まっている。世の中もそうなのだろうか。黒く染まってしまって取り返しがつかないほどになっているのか。何処かに白のキャンパスが転がっているのかもしれない。それに気づくことができないほどにおぼれてしまっているのかもしれない。見えていないことも否定するのはいけないと思ってしまうのはどうしてだろうか。まだどこかに信じれる何かがあるのかもしれない。
「個展があるからといっても小さいからさ。また何かあったときのための絵を描いているんだよ。分からないけどストレスを発散しているのかもしれないし。」
「小さいときから部屋にこもって書いていたよね。おふくろがいなくなってもずっと。」
「あれは高校の部活の奴だよ。あの時の絵が一番暗かったかな。まぁ、そんなときもあってという今は思い出に過ぎないけどな。」
2人は命日になると母親の墓に行く。今年も行くだろう。親父の悪事を晴らした圭太をねぎらってくれるだろう。おふくろは仕事を捨てることはできなかったため、あのくそ親父と結婚したことを無念に思う。あんなつらい思いはこりごりだとしまってある扉に鍵がかかっているのだから。




