嘘の実家
八木は近くにあった資料をとった。机は散らかりすぎている。工藤は遠目で見てほっといた。事件で頭がいっぱいだから。
「画材店が古くからあるところであることは分かったんだ。そこで必ず大型店では買えないものを買っていたんじゃないのかと思ってね。」
「じゃあ行くか。事件のことを片付けていくか。」
2人は車に乗った。車の中でラジオを流すわけでもない。ただ、八木が見ている資料の音が響いている。工藤にとっては落ち着く音となっていた。古い建物だった。看板には薄れた字があった。村沢画材店と書かれていた。中に入ると居眠りしている店主がいた。八木は起こすのを嫌がった。話す内容が普通の人が聞くべきではないから気づいたら話すことにした。数分後、店主が起きた。
「お客さん。きていたのなら起こしてくださいな。」
「俺たちは客じゃないんですよ。」
店主はクビを傾げた。いや、絶対かしげざる負えなくなると思う。八木はスーツから警察手帳を出した。
「警察のかただったのですか。失礼しました。」
「いえいえ。」
工藤はいった。何故、警察に尊敬の念があるのかが不思議に思ってしまう位だ。きっと心のどこかが病んでいるからだといわれてしまいそうだ。
「阿部登さん。知ってますよね。」
八木は写真を取り出した。店主はじっと写真とにらめっこをしていた。記憶の中から引き出そうとしているのだろう。
「阿部さんはよく買いに来てましたね。確か休日になると絵をかきに遠出をするみたいでしたよ。会社は信用ならないからいつかやめるって言ってました。最近ですかね。自分がいるべき場所じゃないってね。」
阿部はこの店主に信頼を寄せていた。会社に対していつからか失ったといえた。そして、絵を趣味から仕事にしようとしていたのではないか。同僚に言えなかったのは嫌味ばかり喋られるくらいならとやめていたのかもしれない。
「彼はね。会社の秘密を知ってしまったんだよ。大企業なら週刊誌によってスクープされるレベルだとか嘆いていましたよ。此処でも書いていたからね。絵を。そうとう好きだったみたいだからね。」
会社の秘密を知ってしまったのか、知らされたのか。店主は遠目を見つけた。思い出になるのだろう。輝いている大切なものだ。
「絶対犯人捕まえて下さい。彼の笑顔を思い出すだけでつらいんですよ。愚痴を言ってくるのがうれしかったから。孫ができたみたいだったから。」
店主は語って頬を濡らしていた。きっと家族からほっとかれていたのだろう。それで寂しさをもっていた。阿部は客としてやってきて愚痴を言えるほどの仲になっていた。その仲間がいなくなった彼はこれからどうするのだろうと2人は胸を痛めた。