はざまの気配
源太郎がカウンターで座って飲んでいるとゆっくりとした動きをしたおばさんが出てきた。おじさんとの会話を聞いていたのだろう。
「圭太君を心配する気持ちもわからないでもないけどまぁなるようにしかならないんじゃないの?」
「自殺未遂を起こして以来話しかけても答えなくなったときがあったのを覚えていますか?」
「私はというより関わった人すべて覚えていることだよ。」
ビールを少し口を潤すために飲んだ。喋っていて喉が渇いてしまったのだと思った。後、思い出したくないことを思い出してしまったからであろう。
「あの時、圭太はかえって来ないと思ったほどですよ。だって謝りもしない姿でどこか悟った気がして手を出してはいけないと思ってしまいました。」
「けど、私がそのことを聞いて圭太君をビンタしたら泣いてすべてを話してくれたのよ。」
不思議と今でも映像が出てくる。夢だと思っていないといけないような気がする。同じことが起こると嫌だからかもしれない。圭太はおばさんにすべて話したことを聞いた。おふくろが親父に殺されたことがわかってしまった。そして遺産もすべて奪おうとした親父たちを許すことができないのだと。母方につくのが一番いいことだとわかっているが変な自信をもっていて親権を取られることはないと思っている親父を見ているとおふくろのことを忘れてしまいそうだったからだと。源太郎はいつも優しそうに笑っているのを見ていると裏切るのはいけないとしか思えないからだと。
「親父とおふくろのはざまで悩んでいたんですね。親父が親権を取りに来ないと勘違いを起こしていたから余計起こしてしまったとしか言えないですね。親父を許すことができません。」
「圭太君も許していないよ。そうじゃないと新聞社に出そうだなんて考えないはずだから。甘く見ていたのは八木家のバカ家庭のほうかな。」
いまだ八木家と能勢家は仲が悪い。親戚同士での付き合いも全くしないのだ。加害者と被害者という風に見ているからだろう。溝を作ったほうは全く悪くないという飄々とした顔を一人前にしているのが気に食わないのだろう。謝罪もしない。罪の意識もない。人間として終わっている家庭として近所では有名なのだ。権力ですべてが終わることはないと。自ら罪を明かすことも考えるべきとしか思えないのだ。無理矢理の結婚が巻き起こした殺人として甘く見てもらえないのははっきりしているだろう。
「落ち着いたから良かったじゃない。また起こる戦争みたいなものは必ず能勢家が勝つはずよ。正義が勝たないと意味ないじゃない。」




