歯車と時計
源太郎が廊下に立っているのに気付いた鑑識がその部屋へと導いた。
「鑑識って榛原さんがいますよね。」
「なぜそれを知っているのですか?」
「俺は八木源太郎って言って圭太の兄です。猛とは仲は良くないですけどね。」
源太郎は淡々と語るのを見てニュースキャスターのように見えた。鑑識の新人らしき人は応接室へと連れて行ってくれた。榛原は気づいたのかお茶を入れていた。
「八木には感謝してます。多くの事件を解決してくれてますからね。俺たちに任せてくれる部分も多くありますから。」
「兄貴も来てたのかよ。ってか呼んでいたのを忘れていたよ。阿部の絵の多くは水彩画を使っていて数少ないけど油絵も描いたようだよ。」
兄弟はそろったわけではないが揃ったような空気が流れていた。おかしいとは心のどこかで思っても納得してしまう。
「どうして猛とは仲が悪いんですか?」
「親父は猛を溺愛して俺たちはおふくろから溺愛されていた。それだけなら何もならないけれどおふくろは実家近くのホテルで殺された。おふくろがホテルに泊まらないことは俺たちの中では知っていたことだった。警察は俺たちから話を聞くことはなく関係ないに等しい猛だけに話を聞いて自殺扱いにした。それから圭太は警察の悪事を注目した。」
「俺の隣の部屋が応接室だった。面白半分で録音レコーダーを近くにおいて見たから殺人のことが話されていた。俺は怖くなって源太郎さんに話した。そして俺たちは親父がおふくろを殺したと思った。週刊誌じみたことをしてみたら案外引っかかって情報が出てきた。」
それは阿部の事件とつながることまで録音がされていた。エリア情報システムがどこから情報が洩れているのかを知ることができる。
「エリア情報システムは警察から情報を得て権力で沈めていたことが録音で分かった。だから阿部は秘書にならせようとしていた奴だから社長から聞かされても可笑しくない。それを知っているのにも関わらず出ようとしたのだから始末されたと考えるかな。」
圭太は過去の事件と参照しているようにしか見えなかった。親父がおふくろを殺したことも1つの記憶としてやっているのだろうか。見えない時計の針を進めているのを止めようとしているのかもしれない。怒りをどこかへとぶつけたくてもできないのだからな。
「おふくろの事件と阿部の事件は必ず混ぜるなよ。上に知られたら俺が殺させるかもしれないからな。上が一番厄介に思っているし始末したいだろう。けど、兄のためにもそうはさせないよ。涙なんて見たくないからな。」
圭太が見せる微笑みに似た笑みは優しさに感じた。源太郎もつられたように笑った。終わりなき時計を見るために。




