未来へつぐもの
工藤は警視庁に戻った。八木は休みたいと愚痴を言ったのでアパートまで送った。少し疲れていたのか眠たそうな目をしていた。相棒として迎えたときは何処かでうんざりしていたかもしれない。だが、一緒に事件を追っていくうちにどこかで認めて行った。捜査一課とぶら下がった札が無駄に揺れていた。
「工藤、お疲れかい?」
机に腕を伏せかけているのを見たのだろう。一ノ瀬徳人といって捜査一課にいるがよけ者にされる八木と工藤を遠くで見つけているのだ。
「一ノ瀬さんこそ。俺たちに関わるなんてろくなことなんてないと思わないんですか。どんな人も避けているというのに。」
「君たちはね。のびのびと事件解決へと導いてくれればいいだけさ。のけ者みたいなことをしているのが気に入らないだけさ。」
一ノ瀬はコーヒーをもって来た。一緒に飲もうといっているのと同じことだ。他の捜査一課の刑事たちのどこか化け物でも見ているような眼をちらつかしている。
「一ノ瀬さんはどうして警察官になったんですか?」
「どうしてそんなことを聞くんだい。」
「誰だって理由があるだと思っているんです。職業なんてものは。単純に決めることができないとね。」
ちびちびと飲んだ。苦味の強いコーヒーを飲む。人生というものをかみしめているような感じがした。
「俺な。新聞にも取り上げられるほどの事件の被害者だよ。事件というのは言いたくはないんだがな。上に知られると厄介だからな。」
「そんなことにまで関わってくるんですね。」
「八木も飛んだ家庭に生まれたものだよ。一番つらいのは苦しいのは八木かもしれないな。八木圭太という人間の苦しみをわかる奴なんて此処にいる人間の多くは知らない。」
一ノ瀬の言葉には八木と何度も言っている。彼に含まれる言葉には家庭とは何かといっているようだ。正しさとかはないにしろ八木という家庭にはなんの秘密があるのだろうか。そして、上にいる人達に臆することは何だろうか。
「八木家というのはあまりにも人の気持ちを考えない家計であることを後々知ればいいよ。まだわからなくてもいつか知ったとき助けるのは工藤と俺しかいないんだからな。」
たった2人しかいなくても助けることなどできるのだろうか。組織という見えない糸をつるし上げたようなもの。何時か切れるのはわかっているのに大人数が簡単にぶら下がるなんて大人げないとしか言いようがない。
「お前は力むなよ。それが大切なことだからな。」
一ノ瀬の言葉に許すばかりだ。唯一としか言いようがない心を打ち明けることができるのなら頼るしかないといえるのかもしれない。