道しるべ
工藤は阿部が残した絵について詳しく調べることにしたため、八木を呼び出した。明らかに嫌だという表情はしていなかった。
「阿部が個展をしていたところに行ってみないか。そしたらわかることも出てくるだろう。」
「そうだな。行こうか。此処では大きな話はできないから車で話さないか。」
「いいよ。お前が聞いてほしいことがあれば聞くよ。」
警視庁の狭い廊下を歩いていると細い黒縁の眼鏡をかけている男の人が控えめに歩いている。端を歩くはいけないと思っているらしい。
「一ノ瀬さん。」
「一さん。久しぶりですね。あまり来なかったので心配しました?」
彼は小さく笑った。心配をしたことを示していた。廊下の奥にある窓には曇って遠くまで見えていない。
「鑑識にも聞いたよ。君たちのことだから大丈夫だとは思っていてもね。八木の親父さんには脅されるばかりさ。」
「放っておけばいいんですよ。あいつは俺の親父ではないですから。もしいるべき場所じゃないと思ったら辞めればいいです。俺が一さんの事件は必ず解決させて見せますから。」
八木が見せる笑顔と裏にある覚悟は接着剤で張り付けたように強かった。一ノ瀬も少なからずわかっているはずだった。普段の姿は気にしていないという恰好はしているだけ。飾っているだけであることが分かった。影にある強さは何処かから湧き上がってくるのだろうか。親に対する対抗心からくるのだろうか。
「そしたいところだが、八木と工藤ばかり頼るのもよくないからね。少しずつでも探ってみるよ。」
工藤と八木は多くは語らずにいなくなった。らしいといえた。自分の精神を批判をする暇があったら信じた道を歩いてるほうがいいと思っている人だから。八木幸助が脅すのは大切なものを抱えているから脅しているのではない。脅しておかないとプライドを保つことができないと思っているのだろう。一ノ瀬は捜査一課にいるのは長い。八木圭太は工藤が来るまで相棒がいようと単独行動をしていた。それを止めたのは工藤昭であるといえる。確かに上の指示は絶対と思っていてすべてをうのみにする姿が嫌でしょうがなかったのだろう。一ノ瀬は気になって声をかけたことがきっかけだった。名を言うだけで事件を知っていた。上の意見を聞くよりいいことがあると思って今も付き合っている。工藤も八木の意見を聞く。上の意見に聞く耳を持とうとしない。だから八木は信用したのだろう。それから八木は工藤や鑑識、一ノ瀬を通じて事件を知ったりするようになる。自分の正しいと思って道をたどっている。たとえ険しい道だとしても。守るべきものがあるから。




