過去の演者の仕掛け
復讐が作り上げていたのは儚い夢をかなえるためであったのだ。兄の幸せを求めるだけだった。
「その物語には主人公がいたとするんだ。小説とかはその人の周りのことしか書かないのだ。それと同じさ。俺を殺せばいいのさ。」
決断を見せているように冷酷な笑みを見せるだけだったのだ。圭太が顔色を変えないように鍛え上げたのだろう。ひどく酷なことであったとしても耐えらないとダメだからだ。
「たいてい予想外の人間が犯人や参考人として登場するはずではないのですか?」
宇佐美の働いていた週刊誌の社長だった。異変には敏感であるはずだ。鑑識から場所を聞き留めたのだろう。
「俺には予想をしないからそう驚くことはない。たとえどんな刃であろうと知ったことだ。貴方は俺たちのことを調べ挙げていたことは知ってますから。週刊誌の記者は気になったことは調べ挙げるのは普通でしょうから。」
社長は困り果てた疲れ切った顔をしていたのだ。返答の困る言葉しかはかないからだろうか。
「本当のことを話したらどうです?あの時みたいにね。」
「俺はもともと生まれるかもわからなかったんだ。おふくろが俺をおなかにいる時に親父におろすように脅された。それを乗り越えて俺が生まれた。けど、俺は無邪気じゃなかった。扱いにくかったんだ。」
つぶやき方は助けを求めているような感じだった。もう帰ってくることのない声を源太郎を包み込んだ。聞こえない叫びをとどめようとしていたのだろうか。それか終わりを見つけようとしているのだろうか。
「おふくろが死んで一番悲しんでいたのは兄貴だったことはわかっていた。向き合うことができないと思っても調べるのを一緒にやったのは俺のエゴだったのだろうから。」
刃の向きを整えるかのように圭太を近づけた。終わり、終焉はいつの時もあると訴えているように見えた。幸せを感じて生きてきたのだろうか。源太郎を見つめながら幸せになるように展開をしていたのだろうから。まるでわき役の演者のようだ。徹することしか生き方を知らないのだろうか。
「圭太、演技だったのか?」
「そうだ。兄貴は知らないだろうけど、高校の時にいじめにあっていたんだ。おふくろが仕掛けたものだったんだ。家族から裏切りを受けたのには絶望も唖然とすることもなかったよ。なるべくしてなったとしかね。」
過去に千尋は八つ当たりは子供にしていたという見えなかった裏を見つけ出されたようにしか思えなかった。源太郎には嘘とか出まかせとか偽りとか言えなかった。失うしかないと思ったから。




