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物語の語り部

源太郎の記憶は何処かで加工されていたのだ。目の前にいるのは悪魔であるのだ。ナイフを持ちながら震えが止まらないわけでもない。むしろ生き生きしているように見ているのだ。普通なら可笑しいなどとくだらない言い訳を言うのだろう。観覧車のさびが落ちてきてもよけないのだろうから。

「圭太、やめろ!こんなことをしたっておふくろは喜ぶはずがないだろう。」

「おふくろは未解決事件の解決だけを俺に残していった。兄貴には画家になるだろうという期待を残したかもしれないがな・・・。」

彼は何が面白いのか乾いたまるで他人を見ているような笑顔と笑い声だった。銀色をちらつかせるだけで満足するはずがない。以前も似たような経験をした。親父に殺されかけたのに自殺未遂だと偽りを言って抑えようとしていた。病院で寝ていた圭太は純粋さは消えていた。冷め切った目が移すのは死だった。此処に来るはずがない。助けが来ないのだからいっそのこと一緒に死ぬのもいいのではないだろうかとくだらないといわれそうなほどの考えしか浮かばないのだ。どうせ助けることができないのだから。

「そうだ。圭太、そのナイフ貸してくれないか?俺も疲れたんだ。」

彼に握られている刃の向きは変わらなかった。下を向いた顔は表情を読み取ることも不可能と言えてしまうのだ。

「兄貴には持たせるはずがないよ。これは俺にとってお守り替わりだったからな。代わるになるものがないからさ。俺には絶望しかないんだ。誰かを信用するとかいうお遊びはしない。もう・・・。」

極端な考えを止めたのは信じてなどいない来るはずがない、来れるはずのない仲間が来たからだ。刃の向きは変わらないが心境に変化が生まれたらという願望が源太郎の中に生まれた。一ノ瀬、工藤、榛原が並んだ。工藤の表情はこわばっていた。相棒としての何かを見つけたいのだろうから。被害者でありながら真実との向き合い方を教えていたのだ。

「八木、そんなことをしてどうなるんだ。」

「どうしてここにと問うのが普通かもしれないけど、一さんが俺たち兄弟を調べるくらいするだろう。一さんは捜査一課でありながら親父とは対立的な立場であったうえに俺に妙な感情をもっているのは一緒にいればわかるさ。」

感情を読み取る機械のようになったのは幼いころの読書だろうな。子供らしくなかったのを恨む親などいないはずだ。

「俺の正義というか復讐は俺が死んで完結するんだ。」

物語を語る語り部のような意味深な笑みばかりをするのだった。


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