組織の会場
源太郎はタクシーに乗った。たまたま選んだような運転手だが、客と話したがるような人だった。普通なら会話を楽しむのだが余裕もないのだ。どこかで叫び声をあげているのだからと思っている。
「お客さん、最近この辺で嘉門ってゆう有名な画家が個展やっているらしいんですよ。僕の知り合いにファンがいて今日、講演会をやる予定だったみたいなんですけど、病気になったみたいでなかったんだと嘆いていましたよ。図に乗らない姿がいいといってね。」
「そうですか。俺も嘉門の絵はあまり見たことがないんです。それほど人気なら見に行ってみるのもいいかもしれないですね。」
他人事のように流すのがいいと思った。廃園となった遊園地の横につけられるのは嫌なので近くの居酒屋を伝えておいた。カーナビの電子的な声は冷たく温かみを感じることはなかった。一方的な指示をしているだけに過ぎないのだ。従うかなど勝手だといえるのだ。
「どうしてあそこまで急いでいたんですか?」
突然、図星をつつかれたような感じがした。見えないガラスにぶつかったかのような衝撃が源太郎に走った。
「急に弟から呼び出しを食らったんですよ。いつもいつも急で困ります。」
「そうなんですか。兄弟の仲っていずれ切れるとか空想を思っていても切れないじゃないですか。僕なんて長男なんで兄弟に小遣いとか挙げてましたよ。今じゃ金の切れ目が縁の切れ目でね。切れてしまって元に戻せないんですよね。貴方には驚きますよ。」
数知れず思い出が回想しているのだろうか。ほっこりしているような表情をミラーにのぞかせた。その表情はただひたすら源太郎を苦しめた。ほっといておいたお前が悪いと知られているような感じがしたのだ。
「家族って簡単に離れることができないですよね。テレビを見ていると家族まで害を受けざる負えないじゃないですか。世間っておかしいんだか正論をたたいているだけに過ぎないのかよくわからないんですよね。」
「今じゃ個人の責任とか表では歌っておいて裏では家族も悪いんだって言ってね。脅しているんですよ。いずれ一緒の責任が付きまとうよって。警察だってひき逃げしたって軽い罰なんて割に合わないですよ。犯罪者を捕まえているくせに身近な犯罪者は野放しをするなんておかしいですよね。困った奴らですよ。組織が腐っている。」
何処の会社にも組織が付きまとっていたりする。その組織が壊れると正論はただの持論へと変わってしまうのだ。




