導いた世界
一ノ瀬は気がかりだった。工藤は八木と相棒となれたことで自由にやることができた。事件の真相を知るよりも大切なものを教えてもらったから。榛原も落ち着いて見えるが見えないものが燃えているはずだ。
「一ノ瀬、工藤を見てきてくれ。俺は少し此処で工藤さんの状況を見ていく。」
工藤は居場所を聞いた後、捜査一課へ逃げるようにしていたのだ。一ノ瀬はそっと風を当たる気持ちで会いに行った。静かな大きな部屋に向かった。つくとあまりにもむなしかった。
「工藤、大丈夫か?無理なら・・・。」
彼の声はさえぎるように言った。
「行きます。一番苦しんでいるのは源太郎さんなんですから。俺はただの仕事仲間に過ぎないんです。あいつに相棒になってほしいといったのがいけなかったんです。」
「お前知らないだろう。八木はお前を捜査一課に選んだこと。真実を知るために動いていたんだ。当事者に近い人に知ってほしかったんだ。このままで終わったら後悔するのくらい目に見えているだろう。」
工藤は見えないくらいにうなずいた。彼は机に挟まってある水色の付箋だった。
「工藤
兄貴にもしもの事があったら頼む
八木」
手書きで書かれた隠れた温かみを感じた。
「俺行かないと。八木が頼み事をしてきたから。」
「源太郎さんの選ぶ選択肢は少ないとしたらあの遊園地に行って解決することしかできない。」
工藤は八木の願いはかなえたいのだ。何処までも相棒でありたいという願望だけかもしれない。いくら無理だとしてもできることはしないとならないと思っているらしいのだ。
「八木はすべてのタイミングを計っていたのなら状況が読めていたことになる。だから、榛原のパソコンに残らない電波を消したりしたのだろうな。ギャラリーを選んだのはわからないと思ったのだろう。」
「急ぎましょう。あの2人は・・・。孤独を互いに感じながら生きていたんですから。」
工藤と一ノ瀬はそろって鑑識に行った。榛原は全く表情を変えなかった。指揮官のように大きく映るばかりだ。
「遊園地に向かうぞ。」
覆面のパトカーに乗った。3人乗ったために1人余ってしまっていた。無常にも事件で壊された兄弟は裏腹にすれ違っていったのだ。誰にも助けを求めることができずに互いに別のところへと落ちていった。1人は復讐の炎へ。もう1人は悲しみの海へ。気づかれずに生きていくことしかなかった。声もあげれない。対立する2つに誰も気づかず、兄弟同士で探るしか手段がなかった。




