伝えたいこと
源太郎はある仮面をかぶってギャラリーにいた。その場所に導いた人間と会いたいと思っているが何処かで疑問を感じることがあってはならないのだ。管理人の夫婦は優しいのだ。時々くる彼を包み込んでくれるのだろう。
「嘉門さん、準備はできてますか?」
「今はギャラリーの中じゃないんで、普通に呼んでください。俺もそこまでこだわる芸能人でもないんでね。」
源太郎の言葉に声をかけた奥さんは間違えたというように照れ臭そうに笑った。その空気感をほほえましく思ってしまった。今は近くで感じることができなくなった。失ったものの大きさを知ったのはいつも失った後だった。失う前に救えたのは何1つなかった。
「貴方は謙虚でいいわ。画家って賞とか取ってしまうと図に乗ることが多くてね。此処じゃやれないとか言ってやってくれないから。けど、あなたは圭太君を通じればやってくれるから何処の経営難のギャラリーを救っているのよ。」
「俺はただ絵をかいて入れるだけの喜びを感じたいだけなんですよ。」
控室で和やかな空気に酔いしれているとドアのノックの音を聞いた。入ってきた男性は不安そうな色をしてきた。
「嘉門さん、貴方に電話が来てます。貴方に話したいことがあるといっている人なんです。講演会の前ですけど話していただけますか?」
「えぇ。」
固定電話の受話器を受け取った。どんな言葉を浴びされるかを考えて出た。その相手に驚きを隠せなかった。
「もしもし。」
「兄貴か。ごめんな。大事な時に電話するなんておかしいよな。」
部屋に来るときの声と昔の声とも違ったか細い声を響かせた。源太郎には返す言葉を考えるしかなかった。それを上回る言葉に勝てる自身もないのに・・・。
「圭太、お前何処にいる!今から行くから。」
「兄貴は画家として頑張ってくれれば俺の夢はすべてかなうんだ。俺の目標もかなうためにやるんだ。心配をする必要はないよ。」
言葉は華やかであるのに声は暗くなってしまっている。源太郎は圭太のかけはないと思っていたのだ。突然生まれてきたものに超えられる壁のでかさに驚いている。超えたいと願っても超える方法を教えてもらえないのだ。
「圭太、頼む。何をすればいいんだ。お前を助けたい。」
零れ落ちる涙を感じたくなかった。彼からの返事をかえって来ることに期待をしていたが重いものを感じた。長くて逃げだしなくなった。此処から離れたいと思った。
「・・・兄貴はただ画家として生きれいればいい。俺の望みだから。」
そういって切れた電話の重さは計り知れないほど重かった。




