血を好むもの
警視庁の屋上に八木はただ景色を見た。見える景色は作られた明かりにまとわりつかないと生きてくことができないほどになっていた。その空虚な明かりを生み出すことがなければ悪事に手をかける必要がないのだ。空は自問自答しているのも知らずかただ曇っていく。雨が降ったとしても時代も世の中も変わるときはほぼ同じだ。
「此処にいたのか?八木。」
「一さん、山辺彰浩の取り調べは終わったんですか?」
一ノ瀬は缶コーヒーを彼に手渡した。一ノ瀬は深読みは好んでないのは知っていた。
「山辺彰浩は父親に殺されることがないから淡々とすべて話してことが面白いほど進んでくんだ。それもまぁ総理大臣に対する反乱だと思わないのかな。此処まで帰る場所がなかったらお前を脅すしかないだろうからな。」
「俺はそれに屈するほどの弱さはないですよ。少なからず俺には守るものがあるんですよ。簡単じゃないですけど・・・。」
八木の手にある缶コーヒーを開けて飲んだ。ミルクの甘さを久しぶりに感じることができた。一ノ瀬は八木が飲んだのを確認してほほえみながら飲んだ。
「俺はお前たち兄弟のことを調べた。お前が源太郎さんに画家として生きてほしいというわけではないが、復讐を阻止するために嘘をついた。それがすべての今の歯車を狂わせたとしたらどうする?」
八木の目にはガラスが光に当たったかのような輝きがあった。すべてを飲み込んで戦うという意味なのかもしれない。
「それでもかまわないです。事件が解決に導かれるのなら何も戸惑うことはないんですから・・・。」
彼が心情を語っている途中に携帯が鳴った。全く躊躇する様子なく出た。非通知ではあったが誰がわかってないとできない行動だと思った。
「はい。どうせ貴方しか此処にかけてくる理由がないですからね。」
「察しがよくていい勝負ができるかもしれないな。八木圭太。よくも嘘を伝えてくれたな。」
「貴方だって嘘を言うでしょう。それと何処が違うというんですか?論破もできないことを言うのはよしたほうが身のためですよ。」
八木の上からの言葉をどうとったかは分からない。電話口の笑顔が見える八木の姿は余裕であるといっているようだ。
「いずれ君を殺しに行く。後ろのこわさを感じてもらわないとな。」
「殺人鬼からの挑戦状は砕け散るだけですよ。俺の後ろも前も正義にまみれた人達しかいないんでね。暴力団をつぶされた今、あなたは何処までも嫌われ者でしかないんですよ。いつでも受けますよ。」




