鏡の時計
一ノ瀬は二人が最近警視庁へと立ち寄っていないのに気が付いた。少しだけ心配になって鑑識に寄った。榛原と仲が良かったのは知っているから。捜査一課はたいていの人はのけ者にされているらしい。例外がある。それは八木圭太と工藤昭と一ノ瀬徳人だけだ。何も愚痴とつぶやかれない。ドアを不協和音のような音で鳴らした。
「ノックなんてせずに入ってくればいい。あいつらもそうしてるからさ。」
応接室なんてない。税金を使っているから無駄金だと思って作らないのだろう。鑑識という仕事を前よりかのびのびしていた。何かいいことがあったのだろうか。
「鑑識はここまで好き勝手していいのか。また八木幸助が押さえつけてくるんじゃないのか。」
「いいよ。そんなの。つまらない。組織のためとか言いながらどこかで自分のために働いているのなら俺たちは八木さんや工藤さんにつく。一ノ瀬も手伝ってくれよ。」
八木と工藤が訪れたことを示した。あいつの言葉は世間を捨てることまではしなくとも間違いをただす行為をしているだけだといってくるだろう。
「見つかったか?」
新人の鑑識がポツリとつぶやいた。雨が降っていることを知らせる燕のように。
「自由に探して見つかるのはホシの髪の毛らしきものとか指紋は消されていて見つからないんです。ホシは計画的だったことがわかるくらいです。どうしてですかね。」
「それはあれだよ。上が上機嫌で押させつけているんだ。八木が関わっているのはなんとなく感じた。」
圭太だけがはまっている沼を抜け出せないわなにでもかかっているとしか見えない。阿部は何処かに伝えたいことを残しているはずだ。ばれたくないと思っても本心を隠し続けるのには無理があるのはわかっているから。
「一ノ瀬。お前の事件はどうするんだ。迷宮入りになっているけど違うことはもうわかっているんだろう。下手な真似をさせないようにしてくれよ。」
「八木か。弁護士になれずに刑事になったあいつが暴走するかもしれないからな。今は1人じゃないことくらいは知っているだろうからさ。」
榛原は鑑識を任せられるほどの能力などなかった。八木に見つけられていなかったら何をしていたのだろう。好きにしろとは最初は言わなかった。けれど邪魔だとかも言わなかった。ただ指示に従ってくれればいいということを背中で示していた。捜査に参加できるほどではなかった榛原は何時の間にか刑事並みに考えられるようになっていた。榛原を利用して鑑識も捜査できるようになれと指示をしていたことがわかり今では全員できるようになっている。




