昔話
此処に来る人はそう多くないだろう。まず、来たくないと願い、行動を起こすようなものなのだから。入ると重苦しい空気が漂っている。面会なんてものをするのはいくらかの報酬があっても来ないだろうから。紙に名前を書いて待った。源太郎にとっては1年以上あったことがないのだ。どこかで今更感を感じているのは吸い取っているはずだから。呼ばれてエレベーターに乗った。
「貴方は嘉門という画家じゃありませんか?」
「そうですよ。会いに来たくて来たわけじゃないんです。けりをつけるための行動ですよ。」
ついてきた男性は仕事中であるため、サインをくれなどと言ってこなかった。その行動は源太郎にとってありがたいものだった。面会室でパイプ椅子に座って時が過ぎるのを感じた。長くもあり短くもあるのだ。向かい側に来た男性は以前より痩せているように見えた。
「あってくれないかと思ったよ。源太郎。圭太から会うなって言われていてな。そうだ、猛にもあってくれないか?」
「猛には用はないんだ。それにあんたは死刑囚になっていることに対する反省もないのか。それだから圭太にも飽きられたんだ。」
彼はまくしたてるように早口で言った。薄暗い窓がない部屋で明るい話など浮かばない。
「それでなんだ?圭太と一緒で用事がないとこんな穢れた場所に来ないだろう。」
「あぁ、圭太をあんたは刺したか?おふくろの事件を追っていったあいつを殺しかけたか?」
すぐにでも出たいので本題を投げかけた。幸助は涼しい顔をしていたが、痛いところを突かれたのか苦い顔になった。
「刺したよ。あいつは覚悟はできているというような顔をしていた。ためらうほどだったが、口封じにはするしかなかった。」
「それだけじゃないだろう。政治家の事件も抱えていたあんたにとっては漏れるのは死活問題だからな。それを擦り付ける人物も必要だったのだ。それを圭太に仕立てようとでも思ったんじゃないのか。黒幕の指示でな。」
源太郎の瞳には鋭い光を感じ取ることができた。言葉の強さにのけぞっているのは幸助のほうだった。
「黒幕がいるという考えか?それりゃあり得ない。警察一家というだけでできたのだ。」
「範囲というものが限られている。黒幕がいることでできることが沢山あるんだ。刑事であるとかだけでは不可能であることが未解決事件に含まれていた。」
新聞やテレビに取り上げて疑問点もすべて言っていったのだ。
「黒幕が今、暴れていることにも気づいていないのだろう。いずれわかるよ。後悔すらできない犯罪者が・・・。」




