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表面

源太郎は空を眺めた。おこがましいほどの地位を持った今、出迎えなどうれしくないのだ。懐かしい建物が押し詰めのようになっている。どこかで立ち止まっているのだろうかと安い悩みにうなされている。

「源太郎君、寄って行ってよ。久しぶりに沢山食べて行って。まけるからね。」

大将の奥さんの調子狂わしにはどうにも逃げられないのだ。それは経験上と都合よくいっておいてもいいのかもしれないのだ。店内は変わらず和風だった。和室じみた部屋には絵本と大人じみた本が本棚がないため乱雑に置かれていた。すべて圭太のためだ。源太郎にはスケッチブックというようにくれた。

「此処においてある本は処分できないんだ。圭太君が喜んで読んだ本だからな。源太郎君の絵もチキンと残っている。それで何のために来たんだ?」

ビールをカウンターに置いた。暗黙の了解がたくさん作り上げられたのだろう。

「俺さ、親父にあってすべて終わらそうと思うんだ。」

「死刑囚のか。八木幸助に会ったところで何も解決しないよ。複数の事件をもみ消していることも此処じゃ有名だからね。」

大将はなだめるように言った。もみ消している事件がたくさんある警察官とはいったい何を守っていたのだろうかと思ってしまう。

「一つの事件だけだ。圭太が親父に殺されかけたことだけだ。俺のためだけに未解決事件にもならず自殺と処理したんだ。それが今でも残っているんだ。消えないんだよ。単純な考えでもないと。それにあいつだけ解決してそうだから。けりをつけるだけの話だ。」

圭太の目は救いようのないほど輝きがなかった。それほど傷つけたのだと思うしかなかった。大将も奥さんもうなずくしかなかった。理解したといっているのだ。

「ただ、無理はするな。八木幸助は認めるはずだ。抱えている傷の中でとても深く深く刻まれているはずだ。抵抗しなかったんだ。その行動を予測できる人間なんて少ないんだってね。」

ビールは冷えていたうまかったが笑顔にはならなかった。

「圭太は俺の心をむしばむものがあると思った。心ない言葉が何かと天秤と戦っているのだとしたらそれから救い出したいと思ってやまないんだ。」

「君はいつもいつも帰りを待っていればいい。そこで開き直ればいい。そうすれば立ち直るはずだから。」

「有難う。此処には帰る場所がありすぎて困るな。俺には重いのかもな。」

絵には表せるのは表面だけだ。すべてを映し絵のようにできない現実が付きまとうのだ。

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