知らぬ声
「源太郎さんが画家になったのは貴方のおかげだとよくパンフレットに書かれているんですが事実ですか?」
「そうですよ。俺は幼いころからどこか冷めていたところがあってあまり遊ばなかったんです。保育園にいてもできるだけこもっていたかったんです。それに大体付き合ってくれたのは兄貴くらいだったんです。たまたま、2人だけが待っているときがあってそこでほめたんです。画家になれって。」
圭太の表情は悪いことをしたことを反省している犯人を眺めているようであった。窓は月明かりで照らされているのは作られているのではと勘違いしてしまいそうなほどスポットライトのようだ。
「彼は感謝しかしてないようですけど、その裏にはまだ何かありますよね。」
「もしかして俺が親父に殺されかけたことですか?」
「そうです。警察では自殺と処理されているが、周りの住民は他殺だと訴え続けた。それも覆ることもなかったのが不思議に思っただけです。」
社長の前にあるお茶を少し苦そうに飲んだ。部屋の中に漂うのは重いものだった。
「覆ることもないのはわかっていたんですよ。まず当時の兄貴を見ていると復讐を起こしそうで自殺にしただけですよ。多くの理由を含んでなんかないですよ。死刑が求刑されているのだからいいんですよ。」
「源太郎さんはそれを悔やんでいるんでしょうね。気を使ったのはわかっていたんでしょうから。」
社長の語り口調は吐き出すしかないと思った。かくしても何が残るのか問うてしまうのは自分なのだから。
「警察は作られた正義感など簡単なんですよ。本当の正義など難しいんです。」
「そうです。政治家なんて言い訳ばかりで謝罪もできないうえに反省の色もない。学ばないチンパンジーですよ。マスコミに疑惑をかぎつけられるとすぐ逃げるかまたは自分のことを棚に上げて偉そうに他人の批判をする最低な奴らですよ。わかってないんでしょうけどね。」
修羅場の道に行った人間は人の所為にするしかないのだろうか。自ら身を投じたのに気づかないのだろうか。甘い考えが縛り付けているのだから。
「失言してしまうのは相手のことを考えていないのだから。どうでもいいと思っているのは心を通り越して透かして見える状態なのだろうか。」
「透明なんですよ。言いたいことを言って通ってきたから何を言っても構わないと思っているんですよ。悪知恵を働かせるのは世の中のためではないのだから。常識もないのだろうか。法も何も知らない。」




