影の隙
榛原は山辺進の携帯番号を調べるとある料亭の電話番号であった。複数回、通っているようだった。高級であると思われる。
「高いところに行っているのは口が堅いと思っているだろうね。防犯カメラもあるし、人によっては話してくれるだろうよ。」
「それじゃあ行ってみるか。」
八木は工藤と一緒に行くことにした。一見さんを受け入れない場所なら明かすときにわかってもらえばいい。政治家は喧嘩を売るのが仕事なのだろう。炎上しても反省をしないのだから。匿名であれば調子に乗るのだろうか。立場もわかっているフリだけなのだろうから。個室であればいいのなら高級な店に足を運ぶ理由はないのだ。招くのは悪事の働くものしか受け入れないのだろう。料亭についたので降りて見ると日本庭園のようになっていた。扉を優しく工藤は叩いた。そうすると静かに開いた。
「今、まだ営業していないんですが、誰から教えてもらったのですか?」
着物を着た女性は上品に言った。工藤は苦笑いを見せるばかりだったので、八木が警察手帳を出した。女性はぎょっとした目で見つめてきた。
「それなら話すことはないです。」
扉を閉めようとするのを八木の靴が止めた。閉めてしまったらわからなくことだってあるのだ。
「俺たちが来ただけで嫌がるのはうかがわしいことをしているのですか。山辺進という人に圧力をかけられているのですか。殺人事件が起きたのに自分だけは逃げるんですね。被害者ぶる事はするでしょうに。そんなことをするのなら流されずに批判してくださいね。それだけの覚悟がないとしてはいけないですよ。」
八木の見えない圧力を感じたのだろうか。諦めたのか扉を開けた。女性はここでは話せないといって応接室へと連れていった。
「ここのおかみをしています。山辺さんはいつも個室を借りるために来ています。最近は頻繁にきて不思議に思っていたんですよ。」
宇佐美史郎と村沢巧の写真をテーブルの上に置いた。
「こちらが宇佐美史郎といって週刊誌の元記者で殺されたときは画家として活躍していました。彼は村沢巧といって元画家で画材店をしていました。彼等の話をしてませんでしたか?」
彼女は考えることなく別の女性に何かを言った。録音をしていたのだろうか。頼まれた女性はレコーダーをもって来た。
「こちらに2人の名前を言ってます。此処数日、繰り返し来た上に脅すようなことを言って帰るので部屋に隠しておいたんです。帰った後、これを聞いて驚きましたよ。」
彼女に会った時の晴れない顔より今のすがすがしい顔を誇りに思った。




