証拠が語るもの
黛の言葉には後悔があった。判断ミスによっておきた殺人もあるからだろう。
「黛さん、後はここより安心できる場所で聞きますから。一刻も早く出たほうがいいでしょうね。捨て駒として終わらないために。」
「わかりました。阿部を殺してしまったことは会社としても社長としても人間としても反省しなければならないのですから。否定することなんて裁判でするつもりもないのはわかっていてください。」
車に乗せられる彼はどこかさわやかな雰囲気をかもし出していた。八木と工藤は一ノ瀬を見送った。榛原も一応はつれていくべきだったが、次の相手が手ごわいことは承知の上だったためここにおいたのだ。
「山辺はどこにいるんですかね。会社を牛耳っていたのが総理大臣だと思うとぞっとするところがありますよ。」
「スパイは何食わぬ顔してやってくるか仕掛けてくるだろうな。指示しているのが総理大臣だ。ばれたらスキャンダルどころの問題じゃない。脅迫して息子に人殺しをさしているんだからな。」
3人が話しているときに八木の携帯がなった。億劫だというようにとった。
「一ノ瀬だ。黛が音声データを取っていたことがわかってな。そこにあるらしいんだ。山辺はここにあまり来なかったこともあってだろうな。」
「ありがとうございます。一さん。」
工藤の目は心配そうに光っていた。その目はにごることはなかったのだろうと思った。榛原は豪華なソファに座っていた。
「ここに音声データがある。黛がしゃべったことだからいまさらうそをつきはしないだろう。だから探せ。」
山辺という男はどういう心を持っているのだろうか。人を殺す。税金を払わないですむように何件もの会社を建ててはつぶしたのだ。自分の利益しか興味がないのだろう。そして罪に問われることはないと高をくくっているのだろうか。
「あったよ。聞いたらわかった。山辺進と山辺彰浩の決定的な証拠だ。言い訳なんてできるはずがない。」
「そのデータを警視庁にいったん持ち帰って榛原、分析しろ。」
榛原の態度は仕事をもらえってうれしい新人社員のようであった。警視庁に頻繁に来るようになった政治家は鑑識には立ち寄らない。道具としてしか見えていないのだ。解決するための道具に過ぎないと。
「このデータはけさられている様子もないので信用できますよ。いじっていないってことは触ったのは黛清だけだということになりますね。」
「このデータと防犯カメラの映像があればいいだろう。図に乗った暴君をつぶすまでだ。」
山辺のしていることはテレビでも暴君だといわれているのだ。反省をせず人に責任転嫁することしかできない上は要らないのだ。




