時の記憶
病院に急いで向かった。源太郎は外の景色を見つめた。流れていくものに何かを託しているのではないかと思った。
「こんなことになったのは昨日の喧嘩が原因なんだ。俺がお前なんて生まれてこなきゃよかったんだといったから。」
「そんなことないわよ。そんなことで苦たれる子じゃないことぐらいわかっているでしょう。」
車の中に生まれるのは重い空気だけだった。近くで見ているはずなのに・・・。と考えてしまうのは間違いなのだろうか。病院へ着くとすでに手術が行われていた。支えられたはずの事なのだろうか。2人が背負い込んでいるのは一体どんな闇であろうか。
「昨日の喧嘩ってそれほどきつかったの?」
「俺の言葉だけだ。あいつは何喰わぬ顔でなんでもしてしまうから怒ったんだ。出ていけって。俺はやっぱり兄貴失格だ。」
告げるものは重く重くのしかかっていた。誰かに聞いてもらうつもりもないのだろうか。独り言のように言った。
「俺の所為だ・・・。俺の・・・所為だ・・・。」
まるで愛する人がかえって来ないと暗示しているように見えた。聞きつけた近所の人が続々と集まってきた。騒がしい大人と静かに聞くだけの子供であった。
「大変なことになったわね。同じことにならなかったらいいけど・・・。」
「そういえば圭太君がかえって来たあと男の人が招き入れらえれていたけど、どうなんですかね。」
不自然であると思った。誰であったのか。本当に自殺であるのかと疑問の?が浮かび上がった。もし殺人であったら事件を隠す行為となってしまう。
「源太郎君のためにも警察に通報しましょう。そうでないといけないですよ。圧力や身内に負ける正義の味方なんて。」
「やめて下さい。」
騒がしい大人を止めたのは小さな小さな声だった。顔面蒼白の彼を見てかけてやれる慰めなど気休めにしか見えなかった。
「圭太が生きてればいいんです。俺の絵を認めてくれる圭太がいてくれればいいんです。自殺だとか他殺だとかはあとにしてください。」
嗚咽を隠そうとする彼は何処かむなしく思った。自分の思いも隠すのがいいのだろうか。何を抱えているのかも謎でしかないのだ。
「そういうのなら・・・。けど、いつかははっきりしないといけないのよ。貴方たちのためにも。」
「それを今は望まないんです。俺は何時かの絶望を見越したことはしないんです。」
寂しい瞳をさらしたのだ。誰にも救えない。支えあってきたのがきっと崩壊したのだろうか。今の行動がわからないままだ。何時か終わりのアラームが鳴り響くのだろうか。




