分岐点
一ノ瀬は八木兄弟が暮らしていた地域に行ってみた。そこは住宅街から少し離れているように思った。とりあえず手あたり次第というやり方だがやってみた。目に入った家のインターホンを押した。
「ハイ。誰ですか?」
「警視庁捜査一課の一ノ瀬徳人といいます。八木さんについて教えていただけませんか?」
「誰の事?八木でも猛や幸助の事なら話したくないのよ。不吉だから。」
中年の女性は不愉快なものを見るかのように言った。一ノ瀬が付け足すと喜んで出てきた。
「圭太君と源太郎君の事はあまり詳しくないのよ。けど、この辺の人ってみんなそうよ。千尋が離婚届け出してたことも知らなかったのだから。それを知ったとたんに関係ない人達を怒鳴り散らしたのよ。自分の恥さらしをしたのよ。だからね。圭太君と源太郎君だっていえば心よく話してくれるわよ。」
「そうですか。有難うございます。」
彼は腰を折った。感謝であった。怒鳴り散らしたのは葬式の時であろう。そこで遺言が出てきたのだ。本当は気づいていたのを無視していたのではと思った。彼が離れようとすると彼女が呼んだ。
「そうだ。そうだ。忘れてたけど、近くのアパートの大家さんに行ってみたら。あの人は2人が幼い頃から知っているはずだから。千尋が殺されてから2人でそのアパートで暮らしていたのよ。だから誰よりも知ってるはずだわ。」
「思い出してくれてありがとうございます。」
「貴方みたいな刑事は圭太君と一緒に動いていてそうだもの。近くにいてもわからないことってあるじゃない。それでもかまわないと思わなかったのね。あの子たちも此処までならなかったの。あの事件さえなければね。」
彼女の口から出たのは後悔であった。同情の域を超えてしまっているのかもしれない。2人はこの地域に見守られてきたのだ。
「すいませんね。突然話を聞いてくれなんて言ったのに答えてくれるとは思いませんでした。少し気になったんですよ。圭太さんの自殺未遂です。」
「私も聞いただけだから詳しくないけどおかしかったくらいはわかるのよ。その日は圭太君、アルバイトに行ってなかったって。何時も休まず2人一緒の場所で働いていたの。その日だけだったの。・・・それと源太郎君も大学の講義を事情を言って抜け出しているみたいなの。それだけしか知らないからどうとは言えないけどね。それじゃあ大家さんに聞いて。」
「ハイ。それだけでもわかりそうです。」
彼女は笑顔を返した。それほどのものなのだ。




