描いた時計の針
2人は資料室に向かった。阿部の別荘探しよりも真実を知ってほしいと八木が願ったのが本音だ。工藤が一ノ瀬の事件がなぜ解決しないのかと不思議に思っているのを感づいていたからだ。今回の事件はつながっていることになんとなく確信づいてしまっているのにもあるのだろう。多くの刑事は立ち入らないような格好をした部屋についた。
「ここからいく部屋は俺にしか入れない秘密の部屋だ。そこに隠されているのは警察が隠したい真実に過ぎない。覚悟はついてるか。」
「あぁ。」
工藤のこわばった顔が何かを証明していた。はかなくもすべて未解決事件とされているものばかりだと示すことにもなってしまう。奥にあかずの扉のようなドアが存在した。
「俺のことを認証しないとあかない仕組みになっている。それは八木家の秘密を守れと任命された人間だけが入れる場所だ。」
指紋認証ではなくパスワードと静脈認証だった。たとえ八木家の偉い立場の人物でも入れないように徹底していた。中に入るとファイルがそこかしこに置かれていた。
「これって。」
「未解決事件と一応はされているもので、ここにあるのはすべて警察が不正にした事件ばかりだ。八木家が支配している警察というものを守るためのものだ。」
犯人が警察関係者だとわかっていながら公表することなく未解決としておかれているもの。政治家が関わっている事件もあった。
「まさか。警察が犯人を野放しにしているってことか。」
「言葉を選ばなかったらそういうことだ。阿部のいた会社は警察とつながっている。この中にある事件のどれかに関わるものか知られてしまったとしかいいようがないな。」
民間企業とつながって賄賂を得ているのかもしれない。賄賂で揺さぶれるほどの弱った組織を誰が助けるために選ぶのだろうか。政治家の言いなりは見飽きた。聞き飽きた。
「俺がここを託されたのは八木家で唯一別の仕事をしている人だ。その人が次の後継者を勝手に選ぶ時期も自由だ。」
「告発しろでも言っているのか。」
「するだろうと思ってるしいつかはするつもりだ。死ぬ覚悟さえあればできる。腐った組織にいたくないからね。」
八木は恐れることを知らない挑戦者に見えた。無謀とも見える企画に喜んで参加するようだった。工藤はついていくことを決めていた。正義を知っているのは本当のことを知っている人物であるから。
「阿部の事件も解決する。この隠された事件を明かす。」
「ついていくよ。俺たちだけじゃないって知っているから。」
闇に落ちてしまっているのは正義だろうか。欲望に満ちた人間だろうか。託されたのは未来の明るさだから。




