映す答え
源太郎はテレビを眺めた。政治家が何度も懲りることなく嘘を吐くのだ。疲れるくらいのプライドなら捨てたほうがいいだろう。嘘を言う位なら黙って欲しいものだ。誰が傷つくのかもわからないのだろう。絵を描いていたらインターホンが鳴った。
「兄貴。」
ただいまは言わなかったがかえって来たといっているようでうれしかった。リビングに来るなりテーブルにビールを置いた。
「書いているのか。・・・そうだ。俺が時々行ってるギャラリーの人が兄貴に個展を開いてほしいってさ。客があまり来ないみたいだよ。」
「事件は良いのか?」
「まぁ、大洲目というところだから息抜きがしたかったんだ。国はいい加減なことをしても許されるのに、どうして民間人はダメなんだとしか言えないよな。」
政治家には嫌だとしか言えないだろう。どんなに無茶苦茶な国会運営をしても金は要らないくらいもらえるのだ。初心とかいうものはないのだろう。責任はないのだ。
「兄貴も息抜きはしているのか?」
「いつでもできるよ。お前が良くいくギャラリーを救うために個展はやるよ。というか依頼を断るなんて何様なんだって思ってしまうけどな。」
「そんな奴いるのか?」
「いるさ。まだ実力が認められてもいないのに持ち上げられて浮かれてしまって断って他のギャラリーがいい話をしないから依頼をしないとかいう人がいるんだ。何事も抜いてはいけないことだってあるんだ。うわべではわかっていても実行となると難しいのかな。」
源太郎の瞳は輝きの中に小さな悲しみを感じた。彼は個展の声がかからない限り、絵をかかないわけではない。ずっと書いているのだ。何時でも声にこたえることができるように。
「忘れてたけど、俺の書いているのか?」
「書き終わってる。けど、見せるのはあとのほうがいいだろう?事件に集中したいだろう。」
「正解。・・・兄貴、この事件終わったら・・・。」
圭太は口ごもるように言った。言いにくいのはわかるのだ。源太郎は問いかけを全て聞く前に明るい声で答えた。
「やめればいい。好きなことをすればいい。俺は反対しないから。おふくろも圭太が望んでいることをしてほしいと思っているだろうし。」
「そうか。有難う。」
改まった話をするのは何処か恥ずかしいのだ。気まずい空気を感じたが無視はできる。圭太が本当の決断ができるまで待つくらいは。同じ過ちを繰り返すことはないように。
「飲むか。事件で疲れるだろう?」
「別の話をしようじゃないか。楽しい。」
圭太の隠れている影が消えたように見えた。




