裏側
「今の時代はおかしいのよ。報道の自由とか政府がきっと口出しをしているのよ。思想もろくに持つなって言われているのと同じじゃない。」
「こら。また別の話をしてしまっているじゃないか。八木さんは仕事なんだから。俺だって言いたいことは山ほどあるさ。」
机に絵がおかれた。言いにくそうに圭太が口を開けた。
「額縁から出してもいいですか?」
「いいよ。飾っても苦情が来るだけだろうからね。それにしても才能のある画家が殺されるのは嫌なものだね。」
ギャラリーを管理している人にとっては宝だと思うだろう。画家がいることで成り立っているのだ。圭太は額縁から絵を外した。キャンパスを触ってみると凸凹したのを感じた。管理人の顔を見ると許可したような表情で頷いた。二重になっているところを破ってみるとSDカードが出てきた。
「こんなものが絵の中に隠されているなんて思わないですよ。だって飾るだけですから。」
「そうですよね。命かけて隠したと思っているほうがいいと思ってます。阿部登は絵は違っても託したのは事実ですからね。」
「嫌な仕事って続くものなのね。貴方は嫌じゃないの?刑事という集団で甘やかしている組織。」
「嫌いですよ。けど、ある気持ちがあれば案外続くものですよ。それは消えない消えてはいけない気持ちなんです。」
2人の目は何処か自分の子供を心配する両親であった。よく来る上に家族を失っていることもどこかで同情をもっているのだろうか。
「八木さん。嘉門さんね。また個展してくださいと頼んでください。私たちも精一杯の生活しかできないのよ。政治家はギャラリーを増やして放置しているの。処分もせずに、負の遺産を残したの。だから・・・。」
「わかりました。兄貴に言っておきます。個展をすると人が集まるのでね。それにお世話になっている人だから。」
「有難う。君にしか頼めないんだ。此処は廃墟同然だからね。大切なことを忘れてはいけないはずよ。」
圭太は頷いた。それしかできなかった。深く深く沈んでいる海の中で光を探しているようなものだ。闇から逃れることは単純なことではないから。
「圭太君。源太郎君と一緒に個展に来なさい。誰も君を責めないよ。彼も怯えているんだから。読み取れているだろう。」
「この事件が終わったら刑事はやめるつもりでいるんです。俺にとって心地のいい場所ではないんですよ。弁護士になるのも手でですからね。それもこのご時世、うまくいかないですからね。」




