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迷路の地図

社長が連れてきたのは居酒屋だと簡単に断定することができないような建物であった。木造でできた料亭だと勘違いを起こしてしまいそうなほどだ。

「外見は憶えはないでしょうけど、中を見たら驚きますよ。」

引き戸を開けると客が来たという知らせが告げた。中は解放感が感じられるようなところであった。薄れた記憶の中に残っていたものが呼び覚まされた。

「一ノ瀬といった和食屋に似てます。あまり周りが見えないのもすべてです。」

「正解です。店主は一ノ瀬でアルバイトをしていた方なんですよ。まだ駆け出しの見習いで料理は教えてもらえなかったんです。事件を知って一人前になって内装を同じにしたいと建設会社に直談判して作ってもらったみたいです。」

一ノ瀬は千尋の相談場所だった。育児に対することだったり、共感してもらえることが多かったのでよく通っていたのだ。

「貴方は八木さんですか?話を聞いているだけですよ。」

「はい。八木圭太といいます。兄が源太郎です。アルバイトしていたならおふくろも知っているでしょうし、親父を嫌っていたこともわかるはずです。」

客のいない店内に店主は考え込むように頭を斜めにした。少し考えると思い出したのか、何度も何度もうなずいた。

「思い出しました。お母さんが確か近くの交番の人ですよね。事件を聞いて驚いたのを覚えてます。子供を置いて泊まるはずがないのにさも空想が正しいと思っているんですよね。」

「貴方もわかってくれてよかったです。おふくろが少し報われるでしょう。」

カウンターの席に着き料理を出してくれた。社長が調べている事はなんとなく思っていた。理解するためだろうと思っていたから。

「社長はわかってきたのでしょう。俺の過去が兄弟関係を悪化とは言わないけどおかしくしていることくらい。」

「源太郎さんが画家にこだわっているのは貴方の存在を感じているからですよね。幼いころにいった一言に縛られているところがあると思ったんです。そして貴方も同じですよ。」

彼の声は明るかった。重くさせないように言っていると思ったのだ。料理とともにビールを飲むのは楽しいのだが心はさほど軽やかではなかった。

「そうですよ。自分たちで作ったものに縛れて生きているんです。兄貴もいつも抱えているものは同じなんです。見えない闇を追いかけて出口がわからなくなっているんです。迷路に入ったつもりはないんですよ。ただの道なのに・・・。」

「深く悩むのはやめて下さい。同じようになってしまうのですから。」

圭太は少し寂しそうな笑みを見せた。

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