第91話:裏切り【1】
☆
コンテストが終わった後、凪はそのまま入院となった。
ベッド上で凪は退屈そうに、ぼんやり空を見ていた。
“コンコン”
ドアをノックする音が聞こえ、返事をすると高杉が花束を抱えて入ってきた。
「高杉先輩」
「具合はどうかしら?」
高杉はそう言いながら凪の表情を見ると痣は痛々しいが顔色はよかったので、胸を撫で下ろしながらベッドサイドの丸椅子に腰掛けた。
「……先日はごめんなさい」
「そんな!とんでもない!
それより先輩は、その、あの、私が優勝した事で……」
聞いては失礼と思ったのか、しどろもどろの凪に高杉は微笑んだ。
「これ程の傷を負い、それでも平静を装い、舞台に立っていた樹神さんを見て、思ったの。
私はプロ意識が低い。この子の方がよっぽどプロだってね」
そんな事ないと首を振る凪を制して、高杉は続けた。
「そんな顔をしないで。
私は何が何でも勝たなくては!という方向性を間違っていたわ。モデルはいつか引退するけど、ファッション業界には居座ってみせるわ。ファッションリーダーとしてマルチに活躍しようって決めたの。今度こそ、自分の力を出しきってみせるわ。
だから、樹神さんも頑張ってね」
(爽やかな人だな)
この学園には本当にいい人達が沢山いる。
「はい!頑張ります!」
こんな素敵な人達が、くだらない大人のせいで苦しむのは耐えられない。
凪は、高杉を見送りながら改めて教頭をなんとかしなければと心に決めた。
☆
平日の昼間は授業がある。よって、生徒が校内をふらつく事は殆どない。
だが、帯刀は例外だ。
何故なら単位を修めた彼にはもう授業がないからだ。
よって、彼が授業の時間帯に校内を自由に歩いていても誰も咎める事はない。
とはいっても、普段の彼は生徒会室に籠っているだけに、ある意味珍しい。
しかも彼は今、彼には縁のないはずの進路指導室にいた。
「待たせて済まなかったな」
口ではそう言ってはいたが、待たせる事に全く悪びれた様子もなく、そこに教頭が姿を現した。
「お忙しい所、お時間を割いて頂きありがとうございます」
帯刀は本当に申し訳なさそうにそう言い、頭を下げた。
「明智君から話は聞いている。学園の将来について按じているそうだね?」
「はい。俺が単位を修めたにも関わらず、休みを取らずに生徒会の一員として毎日職務にかかりきりなのは、良い学園にしたいという思いからです」
帯刀はそこで区切り、悔しそうに顔を歪めた。
「……ですが、どうにも納得がいきません」
教頭は眉根をピクリと動かすと、話を続けるよう促した。
「俺がこの学園に入学したのは、優れた人材の芽を伸ばす事を方針に掲げていたからです。ならば、優れた者ならそれ相応のポストが約束されると信じて入学したのに実際は違ってました。
ですが現状は、生徒会は理事長の腰巾着で学園自体は理事長の思いのままに運営されている。
俺は一年のうちに高校で必要な課程を全て特Aで終了させてます。
それなのに……」
帯刀は頭を垂れて、拳をギリリと握り締めた。
微かに見える表情には、自分と同類の強い憎しみの色が出ているのを見た教頭は、同情するような表情で相槌を打ちながら帯刀の話に耳を傾け続けた。
「それなのに……何故、大海原が会長なんですか?
未だに授業を受けてるあいつと修了している俺、誰が見ても俺の方が優れているのは明らかじゃないですか!
……あいつが春宮グループの一族だからですか?ならあまりにも理不尽過ぎます。いくら経営者が春宮グループだからってそんな事が罷り通っていいワケがない。
そう苦しんでいると、明智先生が声を掛けて下さいました。
教頭先生もまた、この学園の在り方に憂いを抱いていらっしゃると。
ですが、教頭先生もまた春宮グループの一族だけにずっと悩んでいたのですが……明智先生が『教頭先生に相談しなさい。必ず俺の力になってくれる』と仰って下さり、この機会を設けて頂いた次第です」




