第8話:歓迎会
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パーティ会場はメモリアルホールの大広間で行われている。
ドアの前に立ち、帯刀は腕を組むように促すと扉を開けた。
二人が入ると、賑わっていた会場はシンと静まり返った。
帯刀は気にした様子もなく、凪をエスコートしながら浩樹達の元に向かった。
生徒会の面々も言葉を失ったように二人を見つめる。
「遅くなってすみません」
凪の声を聞いて、越智が高いテンションで出迎えた。
「お嬢ちゃん最高だよ!天使が舞い降りたみたいだ」
越智がそう言うと、
「本当に。樹神さん、とても綺麗ですよ」
と、紫藤も彼女を賞賛した。
(マジか……!?)
浩樹は魂が抜けたように暫く惚けていたが、やがてぎこちなく手を差し伸べた。
「い、一緒に踊ってもらえますか?」
生徒会長として新メンバーを迎える。
その役目をなんとか思いだしてそう言うと、凪は困ったように手をもじもじさせた。
「あの、実はあたし、踊ったことがないんです」
それを聞いて、浩樹は思わず微笑んだ。
「大丈夫。俺がリードするから」
浩樹は任せておけと胸を叩くと、彼女の手を取り、舞台の中央に連れていった。
ソシアルダンスなんてした事がなかった凪は不安そうにしていたが、「任せとけ」という言葉通りに浩樹は見事に凪をリードした。
初めのうちはホールに人が溢れて芋洗い状態で踊っていたが、いつしか周囲は踊るのを止めて凪達を溜息混じりに見詰めるようになった。
「あの、浩樹先輩?あたし、変ですか?」
「どうして?」
「なんか注目されているので……」
(そりゃあ、こんだけ可愛きゃ注目も浴びるさ)
浩樹はそう思ったが、それは喉の奥で飲み込み曖昧に笑った。
「主上殿が赤面なんて珍しいな」
越智がからかい口調でそう言うと、紫藤も相槌を打った。
「本当ですね。
ですが、本当に樹神さんは愛らしいですから当然かもしれません」
面白そうに浩樹の様子を観察している二人に対し、帯刀は機嫌が悪そうに眉根を寄せている。
「デレデレしすぎだ。ド阿呆め」
そう呟く帯刀を宥めながら、越智は彼を軽く小突いた。
「お前がやったんだからそんな顔するな。
いやあ、流石はファッションデザイナーの息子。見事なもんだ」
「そうですね。素材がよかったからでしょうね」
その何処か嫌味のあるセリフに、帯刀は剣呑な視線を紫藤に浴びせた。
「おや、どうかしましたか?
僕は樹神さんが可愛らしいと褒めただけなのですが?」
帯刀は何か言おうとしたが、反抗するのを辞めて珈琲を口にした。
曲が終わって凪達は一度戻ってきたが、その途端凪は次々に声を掛けられ、休む間もなく踊り続ける事になった。
そのお陰で踊りはだいぶ上達したが、息が上がってきた。
更に動いてるうちにコルセットが絞まっていき息苦しさを感じる。
それを見ていた帯刀は彼女の元へ行き、パートナーに一声掛けると半ば強引に席に戻し、徐にコルセットと背中の間に手を差し込んだ。
(ひゃっ!!)
帯刀の手の熱が背中に伝わり、反射的に凪は身体を魚籠つかせた。
「やはりな。かなりキツイだろ?」
「だ、だんだん絞まっていってしまって」
「……これじゃあ食事も採れないな。コルセットを直すからちょっと来い」
そう言って帯刀は凪の手を引いて会場から一度出た。
そして近くの空いてる部屋に入ると、彼女の背中に回りファスナーを下ろしてコルセットの紐に手を掛けた。
完全に弛めるのではなく、程好い状態に器用に弛めていく。
「どうだ?」
「大丈夫みたいで……」
そう答え終えないうちに突然帯刀に口を押さえられ、近くの机の下に引きずり込まれた。