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第7話:身支度ハプニング?

 


 丸々一冊を読み終わり、一息つきながら徐に時計を見て凪は悲鳴を上げた。



「嘘でしょ!?七時を回ってる!!」



 急いで寮に戻って着替えなきゃ間に合わない。

 鞄片手にドアから飛び出すと、何かにぶつかり尻餅をついた。



「走ると怪我するぞ」



 機嫌が悪そうな声の主を見上げると、そこには黒のタキシードに身を包んだ帯刀の姿があった。

 一高校生がタキシードを完璧に着こなしてる様に凪は心を奪われ、帯刀に見惚れていた。



「一段落ついたか?」



 バリトンの声音に、凪は壊れた人形のようにコクコクと首を上下に揺らした。

 帯刀は「そうか」とだけ言うと、紙の手提げ袋を凪に渡した。



「生徒会みんなからのプレゼントだ」


「え?でも」


「受けとれ」



 拒否を許さない口調でそう言うと、室内を指差した。



「着替えてこい」



 戸惑いながらもそれを受け取り、凪は生徒会室で袋の中の箱を開けた。

 それはまるでウェディングドレスのように白い。

 手作業のような繊細なレースをふんだんに使い、膝丈のギャザーの裾にはチュールが覗く。


 生地は絹だろうか?


 滑らかで吸い付くような感触の生地は0がいくつ付くのだろうと目眩を覚えたが、みんなの気持ちを無下にする事は出来ない。

 凪は覚悟を決めて、それに袖を通す事に決めた。


 だが、問題が発生した。


 ドレスを着る以前にコルセットを装着する事が出来ない。

 どうするべきか悩んでいると突然、帯刀が中に入ってきた。

 下着を外した状態である。

 それなのに、帯刀に躊躇(ちゅうちょ)した様子は全くない。

 凪は咄嗟にドレスを掴むと、上半身を隠した。

 帯刀は平然と彼女を見ると、それを剥ぎ取り背中を向けさせた。



「え!?やっ!?た、帯刀先輩!?」



 顔を真っ赤にして動揺している様子にも、帯刀は動じずコルセットを手にした。



「時間がない。手伝う」


「え!?て、手伝うって!?」


「樹神。自分で胸を寄せるように持ち上げてから、コルセットをしっかり当てろ」



 凪は恥ずかしさでいっぱいだというのに、帯刀は至って事務的だ。

 そして凪の気持ちを汲む気はないらしい。

 どちらにせよ、このままでは着替えられない。

 凪は震えながら言われた通りにした。

 帯刀は慣れた手付きで、コルセットの紐を結び始めた。

 時折、胸の谷間の布を引っ張り、更に縛るように結ぶ。

 その度に指が肌を掠め、凪の心臓は壊れそうな程、早鐘を打つ。

 ややあって帯刀の声が耳元で聞こえ、凪はビクンと身体を揺らした。



「キツいか?」



 慌てて首を振る。

 いや、正確には、首を振る事しか出来なくなっていた。



「後は自分で着れるな?」



 低い声は脳の中に直接響き、思考回路が停止する。

 帯刀は完全に茹でダコと化している凪を見て、楽しそうに笑って耳元でそっと囁いた。



「いいだろう。全部してやる」



 ゾクリと全身に痺れが走る。

 囁かれた耳が燃えるように熱く感じ、弾かれたように帯刀から離れた。



「だ、大丈夫です!!」


「では、着替えたらこっちに来い」



 帯刀は笑い出したい衝動に駆られながら生徒会室の奥の部屋に消えていった。

 凪はその場に崩れ落ち、覚束ない手でドレスに手を伸ばして着替え始めた。

 別に変な事をされたわけじゃない。

 帯刀は、まるで下着屋の店員のように至って事務的に行っていた。

 そう、自分が勝手に意識し過ぎてるだけなのだ。

 凪は、心を落ち着かせるように着替えたドレス姿の自分を鏡に映した。


 一方、帯刀はメイク箱からファンデーションやチークを色合いを合わせながら並べていく。



(あのドレスならピンク系で甘く纏めるべきか?)



 ブラシ専用ケースを取り出し、筆を取りやすいように手前に置いたところで、凪が姿を現した。

 顔を未だに赤らめてる凪を椅子に座らせると、帯刀は上着を脱いで袖を捲り、凪の前に身を屈めた。

 凪は至近距離に帯刀の顔が飛び込んできて、思わず堅く目を閉じた。

 帯刀は軽く目を閉じるよう促した。



「修正の時間はないから動くなよ」



 そう言った瞬間、顔に指が触れた。

 それは、顔の外側に向けて伸ばすように触れ、次にスポンジの感触がして同じように動く。



(ま、まさかメイクをしてくれてる?)



 何故帯刀が?


 と、いう気持ちが湧いたが、手慣れた感じが心地よくなっていく。

 瞼に筆の感触と綿棒の感触がした後、目を開くよう言われた。

 そっと開いてみると、真剣な表情で目の際に色を落とす帯刀の視線が飛び込む。



「次は、ルージュだ。少し口を開けろ」



 言われるままに従う。

 帯刀は紅筆を数本取り出して、慎重に凪の唇に朱を落としていく。

 先程のコルセットの着付けといい、今のメイクといい、プロのような動きに凪は呆然としながら帯刀の睫毛に視線を落とした。


 眼鏡で気付かなかったが、意外に睫毛が長い。



(帯刀先輩って綺麗だなぁ)



 帯刀の動きが、本当にアーティストのようだったせいか、凪は完全に落ち着きを取り戻し、そんな事を考えていた。



「よし」



 ややあって、帯刀はそう言うと、凪に手鏡を渡し、道具を片付け始めた。

 出来たらしい。

 凪はそっと鏡の中を覗くと、そこにいる自分の姿に驚いた。



「凄い。あたしじゃないみたい」



 彼女のそんな呟きに一瞬嬉しそうに笑ったが、すぐいつもの鉄面皮に戻り服装を正した。



「さぁ、いくぞ」



 パーティ迄、後10分しかない。

 凪は頷いて、帯刀の後に従った。



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