第73話:教頭という人物
全てを読み終えたところで、浩樹は帯刀を睨み付けた。
「恭介。お前いつから凪が狙われてると知った?」
「岩倉に写真を見せられた時だ。すぐお前に報告しただろう」
帯刀は何を今更とばかりに返答すると、今度は越智が不穏な空気を発しながら口を開いた。
「あたしの家に泊まらせたのもそれが理由か?」
「そうだ。冬休みに樹神を一人にさせたら守りきれないからな」
「なら、何故その時にあたしに言わなかった?」
除け者扱いか?という視線を浴びせた越智だったが、帯刀は表情を変える事なく答えた。
「確実に勝てる見込みがない状態で巻き込んだりしたら、俺が樹神に一生恨まれる。だから時期が来るまで言わないようにした」
それを聞いて越智が首を傾げた。
「ちょい待て。凪が前々から自分が狙われてる事を知っていて、帯刀以外に知らせないよう指示したというのか?」
「あいつが指示するわけがないだろう?
だが、下手したら将来に響くような事に巻き込ませようと考えるか?樹神が。
まあ、あいつが知っているのは別件だ。
歓迎パーティの時に樹神は教頭の裏口入学の会話を偶然聞いた。
それからは時折見掛ける教頭や明智の動きを注意して観察していたんだ。
で、対抗戦の奴等も教頭とグルになってる事、教頭が理事長の座を狙っている事を知った」
「お前はなんでそんな危険な事を止めなかったんだ!?」
教頭が生徒であろうと、野心の邪魔になるような相手なら容赦しないと言ったのは帯刀だ。
その帯刀が凪を止めなかった事が浩樹は許せなかった。
帯刀の胸ぐらに掴みかかりろうとしたが、それは紫藤に止められた。
「大海原さん。少なくても教頭は凪さんが自分を探っていた事はご存じではなかったかと思いますよ」
「馨の言う通りだ。凪が狙われた原因は『街で見掛けた素敵な兄妹』のせいだ」
「ええ。誤解にしろ兄妹と雑誌に載れば、こうなる事ぐらい容易に判断できた筈です。軽率にも程があると、僕は感じますが?」
冷たく言い放たれ、浩樹は言葉を詰まらせながら帯刀を解放した。
「過ぎた事をどうこう言ったところでどうにもならないし、建設的に話すか」
越智がそう言うと、紫藤も同意して話を進めた。
「そうですね。僕達の姫様はとても御立腹なようですし、早いとこ話を進めないと大変ですよ。
さて、まずは僕が辿り着いた情報は、その裏口入学の件ですね。
大海原さん、パソコンを借ります」
紫藤はパソコンを開いてログインすると、呆れたように溜息を吐いた。
「まさかと思いましたが、誰にでもわかるパスワードを使用されるのはどうかと思いますよ」
以前帯刀に言われた事を再び言われ、釈然としない表情の浩樹をそのままに、紫藤は自分のサーバーから情報を開いた。
「教頭が着任してからの裏口入学者名簿と振り込まれた額になります。
ですが、この程度ではビジネスの一環でしかありませんし、公開してしまったら信用が落ち、更に関わった生徒の将来に影響が及ぶ点から隠蔽されるでしょう。
当然、僕達にとっても不利益なのでお勧め出来ません。
問題は、こちらの資料になります」
紫藤は新しいファイルをクリックさせて、みんなに見せた。
「裏口入学の金が何処に流れているかが書かれてあります。
5億ほどはご本人が着服されていますが、政治家の裏金に融通を利かせたであろう職員にも振り込まれてます。
こちらを叩けば理事会で彼を追放させる事も可能でしょう」
それを見ながら越智が嫌悪の表情を浮かべて、画面を指先で叩いた。
「大人って汚いよなぁ。私腹肥やしてデカイ顔してるんだから」
「これだけだと、まだ教頭が復活する可能性があるぞ。うちの一族は自慢にならんが金に汚い連中は多い」
浩樹も自分の一族を本当に嫌っているらしく、苦い表情で答えた。
「だからこそいくらでも埃が出てくるから叩き甲斐がある。
俺は別件から当たる事にする。どうせやるなら奴をボロボロにしてやる」
久し振りにブリザード空間を作りながら、不敵に笑う帯刀を冷ややかに越智は眺めた。




