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第5話:出逢い【5】

 


 ☆


 凪と別れた越智は、男子寮の庭にいた。

 周囲に誰もいない事を確認すると、目的の部屋を見上げた。


 良い具合に窓が空いてる。


 越智はほくそ笑むと、近くの木を慣れた手付きで登り、その窓に飛び込んだ。

 驚いたのはその部屋の主の生徒会長の大海原浩樹である。

 丁度湯上がりで、上半身を晒したまま、牛乳を飲んでいたせいで、いきなり登場した越智を見て、それを噴き出してしまった。



「お、お前なぁ……」



 苦情混じりの声に構わず、越智は至って自然に近くのベッドに腰掛けた。



「主上殿におかれましては、こうでもしないと中々お目にかかれませんもので」



 冗談めかしてそう言う彼女に苦笑しながら、浩樹は椅子に腰掛けた。



「で、何の用だ?」


「おぅ、実は樹神凪についてなんだが」


「ああ、あの面白い子か」



『面白い』の代表にそう言われるのはどうだろうかと、感じながらも越智は続けて言った。



「彼女を生徒会に入れたいと思ってね」



 その言葉に浩樹は不思議そうに答えた。



「さっき帰り道で、恭介にも言われたぞ」


「帯刀にも?」


「『あれはいい』ってさ。あいつがそんな事言うの珍しいよな」



 言い回しに違和感があるものの、帯刀が興味を抱く人物なら間違いないと確信し、先程より語彙を強めた。



「彼女は帯刀と馨が似た者同士だと言っていた。

 相手を見透かしながらも自分は相手に見せない点が・だ」



 その意見に面白そうに身を乗り出した浩樹に越智は頷く。



「第一印象は平凡だと思ったんだが、いや、なかなか……彼女は人をみる目がある。

 それに何故かつい構いたくなる」



 それには浩樹も同意した。



「確かに。俺もつい気になって声を掛けてしまった」


「だろ?それだけ印象を与えるというのも一つの能力だとあたしは思うんだよね。

 それにあたし達生徒会メンバー全員に来た早々会うって事自体珍しい。

 神様が引き合わせたって気がしないか?」



 最後のフレーズには苦笑した浩樹だったが、確かに悪くない。

 自分の勘も彼女がいつか生徒会を統率するほどに成長すると言っている。

 勘が外れた事のない浩樹は、それに従った。



「よし!指名してみっかぁ」


「よろしく♪

 じゃあ、口煩い毛利殿が来る前に帰るとするか」


「新寮長に指名されて責任感燃やしてるんだから仕方ないだろうが」


「堅物だもんな。あいつ」



 寮長、毛利慎太郎。



 出来れば生徒会にいて欲しい人物だったが、絵画に専念したいと拒否した人物である。

 真面目で融通が訊かないが、実に優秀だったため、前寮長が任期を縮めて彼を任命した。

 1年で大抜擢を受けた彼は、乗り気ではなかったが、真面目さを発揮し、今や上級生でさえ逆らおうとはしない人物。

 女人禁制の寮に忍び込む越智にとっては正に天敵と言っても過言ではない。

 よって去り際も見事なもので、素早く木に飛び移り、地面に飛び降りると猫のように足音も立てずに走り去っていった。



(あいつには女である事を自覚させるべきだな)



 とても女性とは思えない身のこなしを眺めながら、浩樹は牛乳を飲み干した。



(樹神凪、ね)



 バスの運転手に手を振って、「いい人だった」と話す、凪の姿を思い出す。

 不思議と胸が温かい気持ちになり、浩樹は微笑を浮かべた。



「確かに、いいかもしれない。それに」



 2ヶ月前に理事長に言われた言葉が浮かぶ。



『とっても良い子なんだ。きっとみんな彼女を好きになる』



 いつも堅い表情をしているあの男が、凪の事を話す時だけ優しい顔をする。

 いかに彼女を気に入ってるか容易に判断出来る。

 従兄弟である彼は、それがどんなに珍しい事か理解しているだけに、そんな表情をさせる凪に興味があったのは事実だ。



「面白くなりそうだな」



 彼女を迎えることで、この先起こるであろう変化を想像し、浩樹は窓を閉めた。



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