第54話:デートのお誘い
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パーティが終わって冬休みが訪れた。
冬休みは殆どの生徒が帰省するため、学校にも寮にも人がいない。
食堂にもおばちゃんが一人で切り盛りしているくらいで、いつもの賑かさはない。
少し寂しさを感じていると、浩樹が凪に声をかけてきた。
「あれ?浩樹先輩も帰らなかったんですか?」
生徒会も帯刀、紫藤、越智の3人が帰省しており、生徒会の活動は休止している。
凪も帰る予定だったが、凪の弟が留学し二人きりとなった両親が新婚気分で旅行に出掛けてしまった為、やむを得ず残ったのだ。
浩樹は何故帰らないのだろう。
やんごとない事情でもあるのかと思ったが、返ってきた言葉はあまりにも浩樹らしいものだった。
「今帰ったら大掃除に巻き込まれるからな。帰るのは正月と決めているんだ。
ところでこれから出掛けないか?」
「何処にですか?」
「横浜の桜木町に」
「桜木町にですか!?」
寮から1時間半位の場所にいきなり誘われ、凪は目を白黒させた。
すると、浩樹は弱気な仔犬のような目で凪を見つめた。
「……い、嫌か?」
「いえ、嫌じゃないですけどいきなりだったものですから……」
すると浩樹は聞こえるか聞こえないか位の小さい声で恥ずかしそうに答えた。
「じ、実は……パ、パフェが食べたくて、な……」
あまりに浩樹に似合わないセリフだったため、凪は目を瞬かせながら浩樹を見つめた。
浩樹はその視線から逃れるように顔を背けると、話を続けた。
「さ、桜木町に生クリームたっぷりの美味い店があると聞いて、そ、その、ひ、一人では入る勇気がなくて…な……」
(ひ、浩樹先輩、可愛いっ!!)
耳朶まで赤くなり、大きな身体を極限まで縮こませる姿に凪は思わず笑った。
「いいですよ。じゃあ、30分後に校門のとこでいいですか?」
「ああ!じゃあ待ってるからっ」
そう言うと、浩樹は勢いよく出ていった。
(あんなに元気よく出ていって……そんなにパフェが食べたかったのかな?)
ならば早く支度せねばと、凪は急いで自室へ向かった。
☆
校門で凪を待っていた浩樹は、やってきた彼女の姿に呆然とした。
(スカート短すぎじゃないのか!?)
コートのお陰で後ろ姿は問題ないが、前を開けているので正面から見ると、マイクロミニから見事な脚線美が晒されている。
ニーハイにロングブーツを履いているため素足こそはほとんど見えないが、だからこそ僅かに見える素足という狙ったかのような絶対領域が目を引く。
「あ、あの、何か変ですか?」
浩樹が無言で、しかも食い入る位自分を見るので凪は心配そうに自分の服装を見下ろした。
「い、いや、そんな事ないぞ!じゃ、じゃあ行くか」
浩樹は慌てて凪の足から目を逸らすと、歩き始めた。
バスで駅まで行き、電車を乗り継ぐと近代的なビルが並ぶ桜木町に出た。
二人はこれから行く店について話をしながら街を歩いていたのだが、凪は妙に視線を感じて辺りを見回した。
すると、行き交う人達がこちらを見ていたのだ。
サラリーマンもカップルらしき人も立ち止まり、こちらを指差している。
「な、なんかみんながこっちを見ているのですが……」
初めは浩樹を見ているのかと思っていた。
今日の浩樹の私服は何気にキレカジっぽくてカッコイイ。
黒のジャケットの下はドレープの入ったシャツにチラチラ見えるジレベストがしまった印象だし、程好くダメージの入ったスリムなボトムスが、浩樹の長い足を際立たせ、まるでモデルのようである。
だが、視線は浩樹だけでなく、凪にも注がれているのだ。
中には写メまで撮影している人までいる。
そのあまりの居心地の悪さに戸惑っていると、一人の女性が声をかけてきた。
「私、こういう者ですが、お時間宜しいでしょうか?」
そう言われながら出された名刺にはティーンズ雑誌の名前がプリントされていた。
「私、街で出会った素敵なカップルのコーナーを担当しているのですが、とても素敵なお二人だなと感じまして、それで是非お二人の写真を撮らせて貰いたいのですが……」
それを聞いた浩樹は慌てて否定した。
「俺達は恋人同士じゃないです」
すると、記者は驚いたように返答した。
「まぁ!ご兄妹なんですか!?」
それとも違う。
浩樹は困ったように曖昧に頷いた。
「み、みたいなもんです」
「いいですね。休日にご兄妹でお出掛けなんて素敵ですね。
まぁ、カップルでないにしろどうかしら?記念に一枚」
恋人ではないということは企画から外れるのだが、「折角の獲物を逃すものか」といったオーラを放ち、何を言っても解放してはくれないようだ。
二人はお互いの顔を見ながらどうするべきかと悩んでいたが、やがて凪が諦めたように浩樹に囁いた。
「大人しく撮られた方が、早く終わりそうです」
「だな」
喜びの表情でカメラを構える記者に溜息を洩らしながら、二人は指示通りにポーズを大人しく決め始めた。




