第3話:出逢い【3】
だが、相対する帯刀も氷の刃のような冷たい声音で応戦する。
「貴様は相変わらず金魚の糞か。
いつまで経っても越智の傍にくっついて気持ちの悪い奴だな」
「羨ましいのでしょう?」
「気持ち悪いと言ったのだが、どうやらその耳はイミテーションのようだな」
「口を開けば悪口ですか?そんな事だから友人が出来ないのですよ。僕は貴方が心配でたまりません」
そうは言っても全く心配していないその口調に帯刀は鼻で笑った。
(こ、怖い……)
二人のやりとりを見て、凪は後退りながらそう感じた。
片方は無表情に、もう片方は顔の筋肉のみで構成された冷たい笑顔で会話している。
見えない冷たい火花で凍傷になりそうな程である。
「馨も帯刀もそのくらいにしておけ。可哀想にお嬢ちゃんが怯えてるじゃないか」
ボーイッシュな女はアルトのよく通る声でそうたしなめたが、帯刀は心外とばかりに反論した。
「越智。俺は普通に会話しているだけだ。
苦情はそいつに言え」
「すみません静香。
彼女を怯えさせるつもりはなかったのですが……彼の表情は怯えさせるのに充分な材料でしたね」
謝りの言はあるが、彼もまた自分は悪くない。
悪いのは帯刀だと主張している。
それを聞いた帯刀は、美しい眉を僅かに動かし、細身の男は、笑顔のまま帯刀を睨んでる。
その様子に、越智は呆れながら凪の二の腕を掴んだ。
「……勝手に遊んでろ。行こう、お嬢ちゃん。寮に入ろう」
ここの人達は、相手の返答を待たずに腕を掴んで連れていく習わしでもあるのか?
何度となく起きる強制連行状態に逆らう事も出来ず、
「え!?あ、はい。帯刀先輩、ありがとうございました」
強引に引っ張られながら慌ててそうお辞儀して、凪は寮の中に引き摺り込まれていった。
その場に置き去りにされた帯刀と男は再度火花を散らし、帯刀は生徒会室へ、男は男子寮へと去って行った。
☆
越智は、寮の扉を閉めると直ぐ「ごめん」と謝った。
「驚いたろ?あの二人はいつもあの調子なんだ。
だからどうか気にしないでくれ」
「い、いつもなんですか……?」
「そう、いつもなんだ。いつまでもガキみたいで仕方ない奴等だが、そんなところ結構可愛いだろ?」
「……可愛い?」
あの二人の会話のどこに可愛げがあったのだろうと思ったが、凪は苦笑してその言葉を流すことにした。
「あ、自己紹介遅れました。樹神凪といいます。宜しくお願いします」
「あたしは越智静香。ここの生徒会副会長をしてる。
んで、あたしと一緒にいた奴は紫藤馨。同じく書記をしていてあたしの幼馴染みだ」
可愛いと言えるのは、幼馴染みだからなのか?と、なんとなくだが納得しつつ、今日一日疑問に思っていた事を聞いてみる事にした。
「生徒会の皆さんは春休みも毎日働いてらっしゃるんですか?」
「そうだよ。春は色々忙しくてね。
この学校は生徒の自主性を重んじていて、生徒会は行事の全てを任されてるんだ。だから毎日動いてる」
それを聞いて凪は目を白黒させた。
入学案内には沢山の行事が書かれていた。その全てを生徒が運営している事が凪には信じられなかった。
「まさか、入学式も生徒会が?」
「勿論。入学式、卒業式、体育祭、文化祭全てだ」
それをこなし、更に色んなイベントを運営する。
かなりの労力である。
休み返上するのも当然だ。
凪の驚きを汲み取るかのように越智は続けて言った。
「特別クラスに入れば三年分の単位若しくはそれ相応の成績を修めれば後は授業に出なくても卒業できるからね。
授業に出ずに仕事が出来る」
特別クラスの存在は知っている。
だが、そこは特に成績が優秀な者でないと入れないし、実際入れても単位若しくは成績を修めるのは困難である。
だが、そんな考えを彼女はあっさり覆した。
「因みにその課程を一年で全て終わらせた奴がうちの生徒会にはいる」
三年分を一年で終わらせられるなんて化物以外の何者でもない。
そんな化物がいるなんて生徒会恐るべしという所だが、一体それが誰なのかも気になった。
食い付いてきている凪の様子に、越智はニヤリと笑って答えた。
「なんとさっきお嬢ちゃんと一緒にいた帯刀なんだよ」
「……帯刀先輩!」




